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嫌がらせ⑤

2022-10-03 00:03:40 | 日記


結局、籠城してはみたものの、男が乗り込んで来る訳でも無く、悪戯に時間が過ぎて行った。

印象に残った出来事。

仕事に遅刻したら全部私のせいになるのだが、一度、女が仕事に遅刻しますという報告を電話で職場にしていたのだが、電話から漏れる声は、男の声で、S、わしが絶対に追い出したるからな!だった。

統合失調症のレッテルを貼られていたので突っ込まなかったが、かなり手の込んだ事をやっていた。

穏やかな日も流れ、女が仕事行っている間、もしかしてわしの勘違いだったかなとか思ったりして、勘違いだったらほんまに心から謝って、この子とも別れたらなあかんなとかも思った事があったが、ふいに置いてあった女の古いケータイを手に取って、保存されている浮気越し電話音声を聞いたら、やはりこの穏やかさは偽りだという事に気がついて、怒りが、そして憎しみが込み上げて来た。


そうして、女との険悪さがピークに達して、2ヵ月位は粘ったが、とにかく女は白状はしない。色々あった。物を壊した事もあった。
こんなに憎いと思わせる女はいないと思って、私も途中からこの子を啓蒙したるという気概も湧いていたが、それをその都度裏切られ、殺したいという衝動がこの胸を駆り立てる時があり、ついには女に包丁を突き付けた事があった。私の性格上、刃物を手に取ったら刺すもんやという認識の中で、ほんの何秒かだが、本気で考えた。今この女を殺すか、それとも止めてここを去るか。警察沙汰にもなっていたので、究極の選択を迫られていた。

懲役で人を刃物で殺した奴の話を聞いた事があった。直接話した事は無いが、隣の房にいた。無期懲役囚だった。そいつ曰く、人の身体は刃物で刺すと豆腐みたいに感じるらしい。

その記憶が頭を過った。

その豆腐が目の前にいる。

何十回もどつき合いをして来たので、私が一瞬、手を勢いよくかざし、それを思いきって女の身体に振り下ろし、それを抜いた瞬間、血が吹き出す所までイメージ出来た。
Sは落ち着き払っているが、物々しい雰囲気だった。

私は決死の判断の中で、間一髪、女は殺せへん。女を殺して懲役行くのはごめんや。と、思い留まり、包丁を置き、豆球の灯りの中、Sの部屋を後にした。もうこれまでだった。

マンションを出たが、地元に帰るつもりは無かった。安目を売る訳には行かない。
時間は掛かるかも知れないが、待ち伏せして、JがSと一緒にいる所を狙おうと決めた。


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