女はあくまでも自然な成り行きで私との関係を終わらせたがった。
何にも無ければ別にそれでも構わないのだが、背後に男が居て、裏で舐めた事やったり私の事を小馬鹿にしている事を想像する事が出来るので、私は土俵際の粘りで、何とか関係を繋いでいた。
しかし、それももう限界に近づいていた。
私は意を決して、Sの家に転がり込む事に成功した。
籠城し、痺れを切らしたJを誘き出し、生け捕りする事を画策した。
しかし、あくまでも口八百で、
その街で仕事を探して家を借りるまでという条件付きだった。
それにしても本当に気持ちが悪い。
普通ならOKしないだろう。
Jの知り合いだというその街の人とも、頻繁に連絡を取った。
籠城し始めて思ったが、やはり変だった。
Sが仕事に行っている間、どうも部屋で監視されている様な気がした。
例えば、変な話、私が知っている人間の声が聞こえたりした。その人間はRといい、Jの隣の中学校の出身だった。
しかし、それはもしかしたら勘違いなのかも知れないと思った。
あまりにも声が小さい。
しかし、今度は確実だった。
Sと二人きりで部屋にいる時に、
突然、S、またわしに居直ったな、と、
叔父Oの声が聞こえた。
今度ははっきりと聞こえた。
その瞬間、女も少しビクッとした。
しかし、どうもまた天井から声が聞こえた。
私はすでに女に統合失調症だと言われていたので、その事には触れなかった。
笑い合う空気も無い。
女もその事について何も言わなかった。
やはり、Sは惚けているだけで、何かを知っている。今の声の内容からすると、叔父Oと繋がっている。
疑惑は一層強くなった。
そして、恐らく警告でもあったのかも知れない。
帰れと。
しかし、あくまでも天井からの声なので、気持ちが悪いが、帰れない。
因みに鉄筋コンクリート、10階建位のまあまあ立派なマンションだ。
常識的に考えて天井裏に人が容易く入り込めるとは思わない。
しかし、丁度近くの部屋で内装工事をやっていた。
無茶苦茶金を使えば、出来ない事は無い。
叔父Oの声が聞こえたという事は、
そういう事だ。
Rの声は丁度真上の階の部屋から聞こえた。
Rは、Jの隣の学校出身で、Jよりも一つ年下、つまり私と同級生だが、ヤンキーで名が通っている。少刑で一緒だった。
Rは、Jの事は知らないと言っていた。しかし、後になって知るのだが、この学校、変わっていて、本当に真横、隣同士に中学校がある。信じられないが、本当にRの母校の真横に、Jの母校があるのだ。
私は隣の市の事なので、何も知らなかった。
という事は、嘘をついていたという可能性も考えられる。
普通に考えて、最早同じ学校とも言えない事は無い一つ上のヤンキーを、知らない訳が無い。
それとも、そこまでJは雑魚だったとでも言うのか。
Rとの付き合いは、別に深いという訳でも無かったが、少刑では同じ房だったので、出所祝いで私の町のラウンジやキャバをご馳走してやった事がある。
私に嘘をつく理由は無いと思っていた。
私は、どうも上が怪しいという事で、
真上の階の部屋の様子を確かめに行った。
ドアに耳を当てると、多分、若い奴達の声がする。鍵も掛かって無かったので、惚けてドアを開けて見た。靴が無造作に置いてある。しかし、それを見て、暴力団や不良の物だとは思えなかったので、私の中で、勘違いかも知れないと思った。
ドアはすぐに閉めた。
靴が汚くて、無造作すぎる。
その後も天井からJの囁き声が聞こえたりした。
最終的には、「上がって来いよ」と、言っていた。
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