先日、これまでなかなか入手出来ていなかったブルース・リー本をまた新たにゲットした。
ブルース・リー研究の第一人者でもあるJohn Little氏が2001年に執筆した“Bruce Lee / A Warrior’s Journey”という英書なのだが、実はJohn Little氏は同タイトルのドキュメンタリー映画を2000年に監督しており、この本はいわばこのドキュメンタリー映画の”メイキング本”的な位置づけなのである。
ドキュメンタリーの方は、米国版のDVDを随分前にアメリカで買って当時何度も見ていたのだが、米国と日本ではリージョンが異なるので、今は日本のDVD/ブルーレイプレイヤーでは見れなくなっているため、長年見ていないうちに内容をかなり忘れてしまっていた。しかし、今回このメイキング本を入手したことで、またドキュメンタリーも観たくなり、日本リージョン版が手に入らないか探していたところ、なんと以前発売されていた『燃えよドラゴン』のDVD映像特典として、この”A Warrior’s Journey”が収録されているバージョンがあることがわかり、こちらも早速購入した。余談だが、これで『燃えよドラゴン』は、普通版やデジタルリマスター版などを含めてDVDで5バージョン、ブルーレイで2バージョン、VHSで3バージョンも保有していることになり、どんだけ『燃えよドラゴン』を見れば気が済むのか、と言いたくなるようなコレクションになってしまった(笑)。
さて、話をメイキング本の方に戻そう。この本はドキュメンタリーを観ながら読むと、ガイドブック的な使い方が出来ることがわかり、なかなか面白い。カラー写真はあまりないのだが、ドキュメンタリーの内容とほぼ同じ展開で進行するし、貴重な資料もかなり掲載されている。前半はブルース・リーの生い立ちを、リンダ夫人やブルース・リーの弟子でもあったターキー木村氏など、ブルース・リーに近い人々のインタビューなども交えながら振り返っていく。彼が如何に中国武術を世界に広めようとしていたか、如何に悟りの境地に達し、型や流派などに拘ることの愚かさ、そして哲学も相まって、如何に自分のスタイルである“截拳道(Jeet Kune Do)”に辿り着いたかなどを丁寧に解説していく。映画の紹介というよりは、“武道家・自己表現のアーティスト“、ブルース・リーとしての側面を取り上げている。また、米国で受けた中国人・アジア人への偏見を何とか変えたいと必死にもがき続けた人生を見事に捉えたドキュメンタリーである。
また、このドキュメンタリーの60%は上記内容である為如何にもドキュメンタリー映画らしい内容だが、後半の40%はブルース・リーの遺作ともなった最後の映画、『死亡遊戯』の未公開映像(当時)をノーカットで一気に収録したものである点で、このドキュメンタリーに遺産的な価値が詰め込まれたと言える。
『死亡遊戯』は1978年に公開された作品だが、ご存知の通り、1972年に撮影に着手し、クライマックスのアクションシーンをかなり撮影していたものの、途中でハリウッドより『燃えよドラゴン』への主演オファーがあったため、撮影が中断されて未完となっていた作品。その後1973年に『燃えよドラゴン』撮影後、ブルース・リーが急死してしまった為、結局『死亡遊戯』も未完のままとなってしまった。
しかし、この撮影済の映像を何とか活かそうと、『燃えよドラゴン』を監督したロバート・クローズ監督を再び起用し、ブルース・リーのそっくりさんなども使って、一つの全く新しい物語として完成させて1978年に世界に公開されたのが、今我々が観ることが出来る『死亡遊戯』である。
しかし、元々ブルース・リーが当初描いていた『死亡遊戯』のプロットは全く違っており、長らく詳細不明となっていた資料が後で見つかったことから、このドキュメンタリー映画では、ブルース・リーの構想資料なども紹介しながら、John Little氏が監督したロケ予定地の模様や、映画『死亡遊戯』ではカットされてしまっていた未公開映像部分などもふんだんに盛り込まれているのだ。これはかなり貴重な映像資産である。元々の構想はクライマックスでブルース・リーは他に2人の武道家と共に、五重の塔に向かい、上の階に登っていくのだが、各階に武道の達人がおり、倒してからでないと上の階に行けないというシナリオ。映画『死亡遊戯』では、3人で上に上がっていくという設定ではなく、ブルース・リー単独でビルの上の階に上がっていくという内容に変更された関係で、3人のシーンなどが全てカットされてしまったのだ。しかし、この貴重な3人のシーンはこのドキュメンタリーではたっぷり確認することが出来る。
数多く存在するブルース・リーのドキュメンタリーの中には、幾つか秀逸な作品も存在するが、このJohn Little氏が手掛けた”A Warrior’s Journey”は、上記の通り貴重な未公開映像もあり、2000年公開当時、ブルース・リーファンの間では歓喜が巻き起こった作品であった。その意味でもなかなか良く出来たドキュメンタリーで、今回久々に観賞したが、改めてブルース・リーの偉大さ、そして『死亡遊戯』がブルース・リーの理想通りの姿で完成していたなら・・・と思いを馳せてしまう作品であった。
ちなみに映画『死亡遊戯』は、その70%以上をそっくりさんの多投で繋いだ作品であり、ブルース・リーファンからは公開当時かなり酷評されたものだが、それでもやっぱりクライマックスのアクションの素晴らしさに酔いしれ、大ヒット。今ではあの黄色いトラックスーツを含め、映画界でも有名な伝説のカルト映画となった。酷評したい気持ちもわかるものの、でもさすがハリウッドが手掛けただけあって映画としては上手く考えられており、それなりに見どころのある“愛すべきB級映画”になっていて、個人的には好きな作品だ。しかも、未公開になっていた3人の武道家が上に上がっていくくだりも、純粋に映画としてはちょっと間延びしてしまう要素も正直あり、映画『死亡遊戯』ではかなり編集したというのは、映画としては正解だったと思う。その上で何とか未完成映画を公開まで漕ぎつけた努力は高く評価したい。
メイキング本の入手がきっかけとなって、また24年ぶりにこのドキュメンタリーも振り返ることが出来たが、とても感慨深いものがあった。