NHK朝ドラは毎回楽しみに観ているが、昨年10月から放送されている『ブギウギ』も毎日録画しながらタイムリーに見続けてきたが、早いもので、間もなく放送が終了を迎えようとしている。
どうしても朝ドラは作品によってそのクオリティにばらつきがあり、正直半年を通して観た時に、“イマイチだったな~”と思ってしまうものも少なくない。やっぱり、朝ドラで個人的に好きだったのは、『あさが来た』、『ひよっこ』、『カムカムエブリバディ』が特に印象に残っているし、近年で一番面白くなかったのは残念ながら『ちむどんどん』だろう。
昨年前半の『らんまん』から受け継ぎ、10月から『ブギウギ』が始まると聞いた時、正直あまり期待していなかった。それはその時主演の趣里、そしてモデルとなった笠置シズ子のことをあまり知らなかったからである。しかし、観だすとどんどん引き込まれ、いつの間にかすっかりハマってしまっていた。
趣里はご存知の通り、水谷豊と伊藤蘭の娘。これまで色々なドラマで観てはきたが、今回のように華々しく主演ドラマとして観るのは恐らく初めてだろう。バイプレイヤー的な魅力は持っていたと思うが、主役を張るイメージではなかったので驚いたが、でも彼女が主役を演じるのを見て、すっかり印象が変わった。
今回演技だけではなく、歌も踊りも披露しているので、相当事前に稽古を積んで臨んだはずだ。しかも、東京生まれ、東京育ちの彼女が、今回大阪弁にも挑戦しているので、まさにチャレンジすることが実に多かったことだろう。しかし、それを趣里は見事にこなしていたし、とても親近感のある見事な演技で見ているものを惹きつけていた。
朝ドラは主演の力量と魅力、そして脚本の出来によって大きく左右されると思う。その意味で、『ブギウギ』がなかなかの秀作だと思えたのは、趣里の新たな魅力が見事に開花されたことと、なんといっても脚本の素晴らしさにある。何を伝えたいのかわからず、行き当たりばったりな作品に見えてしまった『ちむどんどん』とは対照的に、物語展開に無駄がなく、それでいて下手に途中の経緯を端折ることなく、丁寧に描いていた印象が強い。そして全体のテンポも実に素晴らしかった。観ている視聴者を毎週飽きさせない展開と、歌や踊り、そして恋愛物語や家族愛、友情などのエピソードを上手く織り交ぜながら、主人公の成長物語が瑞々しく描かれていた。
共演者もなかなか多彩であった。趣里演じる福来スズ子の育ての親を柳葉敏郎と水川あさみ、病気で亡くなってしまう恋人村山愛助を水上恒司、そしてその母で吉本興業の創始者がモデルの村山トミを演じた小雪、マネージャーの黒田有(メッセンジャー)、スズ子に曲を提供し続けた羽鳥先生を演じた草彅剛も名演技であったし、ライバルの茨田りつ子役の菊地凛子、他にも初期に入団していた歌劇団メンバーには蒼井優、伊原原六花、本上まなみ、藤間爽子、中越典子、市川美和子、えなりかずき、宮本亜門、富田望生、友近、生瀬勝久、田中麗奈、内藤剛志、近藤芳正など、実に多くの名俳優たちが半年の放送を通して出演して、それぞれ魅力あるキャラクターたちを演じながら盛り上げていた。
今回の朝ドラを通して、“ブギの女王”と呼ばれた笠置シズ子という人物についても学ぶ機会となったし、意外な吉本興業との関係性など、知らないことも多かった為、内容的にも興味深いドラマとなった。笠置シズ子の曲で最も有名な『東京ブギウギ』は今でも色々なCMなどでカバーされているので、若い人たちも耳で触れたことはあるかもしれないが、あの激動の戦前から戦後という困難な時代、そして戦後の高度成長期に日本国民に対して歌と踊りというエンターテインメントを通して、夢と希望を与えた存在であったことがとても良く理解出来た。久々に気持ちのいい朝ドラとなった。