イップマンは詠春拳の使い手だが、あのブルース・リーの師匠であったということで一躍世界的に有名になった武道家である。昔からブルース・リーファンにとっては、イップマンは特別な意味を持つ存在であったのだが、イップマンの生涯が映画化されたことで、それまでイップマンを知らなかった人、ブルース・リーとの関係を知らなかった人にもすっかりイップマンの存在が浸透したのだ。イップマンシリーズは特に中国で大ヒットしている。
まずは2008年に公開された第一作『イップマン 序章』では、太平洋戦争中、日本の支配下にあった中国を舞台に、イップマンが中国人の誇りを持ってクンフーで日本人の空手に立ち向かう熱い作品であった。何とも強烈な反日映画でありながら、人種の壁を超越した感動を巻き起こした傑作であった。日本からは池内博之が出演しており、イップマンとラストで対決する日本軍将校を演じている。
そして第一作の大ヒットを受けて、2010年に公開された第二作『イップマン2 葉問』。ジャッキー映画でお馴染みのあのサモ・ハン・キンメ[とも共演。戦後に香港に移り住んで、詠春拳の道場を開くが、香港で様々な試練に巻き込まれる物語を描く姿を描く。映画の最後に、ブルース・リー少年が道場への入門を志願するシーンで終わるところが、ブルース・リーファンにはたまらなかった。
第三作『イップマン3 継承』は2015年に公開された。この作品からは、イップマンに関わる史実とは関係なく、完全にオリジナルストーリーとなっているが、あのマイク・タイソンとの壮絶な対決シーンが話題を呼んだ。また前2作で武術指導を担当していたサモ・ハン・キンメ[に変わり、本作ではジャッキー映画でもお馴染みであった巨匠ユエン・ウーピンが担当しているのも話題となった。
そして、2019年の昨年、ついにイップマンシリーズ完結編となる『イップマン4 完結』が公開され、既に中国で大ヒットを記録。今年5月の日本公開が待ち遠しかったが、公開よりも前にブルーレイで観賞出来たのは、日本公開との時差があったことによる裏技である。前作に続いて、ユエン・ウーピンが武術監督を担当。本作で話題となったのは、その巧妙な物語設定。
イップマンは自分が癌で余命僅かであることを知り、息子の将来を考えて、アメリカに留学させたいと願うが、息子はアメリカ行きに賛同しない。そんな中、かつての弟子であったブルース・リーがサンフランシスコで道場を開き、空手トーナメントに出場するということで、イップマンにもぜひ見に来てほしいとサンフランシスコ行きの航空チケットとブルース・リーが出版した武術本を弟子に託して、イップマンの元に届けるところから物語は始まる。イップマンは息子をアメリカに留学させたいということもあり、ブルース・リーに会いにサンフランシスコに向かう。そこで、人種問題が絡んだ大きな事件に巻き込まれていく。
この映画の見所は、イップマンと息子の親子物語が巧みにテーマとして描かれていること、そして舞台をサンフランシスコに移し、あのブルース・リーも本格的に登場するというのが、ブルース・リーファンとしては何とも感動的な展開だ。ブルース・リー役を演じるのはダニー・チャン(チャン・クォック・ワン)。2008年に中国で放映されたブルース・リー伝記TVドラマ、『ブルース・リー伝説』でもブルース・リーを演じて、すっかりブルース・リー俳優として定着したアクション俳優だ。幼い頃からブルース・リーに憧れていたということで、改めてブルース・リーが世界に与えた影響力に脱帽してしまう。
更に、この映画にはとても可愛いヴァンダ・マルグラフという16歳の若手女優が出演している。サンフランシスコ中華街を取りまとめる中国人会の会長を父に持つ彼女は、学校で中国人にも関わらずチアリーディングチームのリーダーに選ばれたことで、白人の同級生たちに嫌がらせをされてしまうという役柄で、彼女の会長の父との関係が、イップマンと息子との関係にも重なってイップマンにも息子との接し方に大きな変化が生まれて行くという意味で、重要な役どころを演じている。彼女はドイツ人と中国人のハーフらしく、何とも美しい顔立ちで、今後の活躍がとても楽しみな女優だ。
物語は実際にブルース・リーがサンフランシスコで道場を開き、白人にクンフーを教え出した1974年頃を舞台にしている。イップマンが実際ブルース・リーに会う為サンフランシスコを訪れたという事実は無いのだが、ブルース・リーが実際に参加した空手大会での演技や、手首だけの突きで相手を数メートル後ろの椅子まで吹っ飛ばす有名な“ワンインチパンチ“などもリアルに再現しているシーンが登場し、一部史実に基づいた設定になっているのも興味深い。
(最初が映画でのワンインチパンチシーン。2枚目が実際にブルース・リーが行ったワンインチパンチの写真)
また、当時ブルース・リーのように、中国人が自己防衛の為に学ぶクンフーを中国人以外に教えるなどはご法度であり、ブルース・リーは中国人コミュニティーからも当時かなりの反発を買ったとの事実があるらしいが、これをまさに今回の物語のテーマに据えて、サンフランシスコの中国人会が、差別・嫌がらせをする白人と対峙する為に立ち上がる姿を描いており、ラストには感動的な展開も待っているのだ。
ゴールデン・ウィークには久々にブルース・リーのDVDを引っ張りだして観賞していた為、久々にクンフー映画にハマっているが、この『イップマン 4』はシリーズを締めくくるのに相応しい、内容の濃い傑作ドラマであった。しかも、イップマンが主役ではあるが、ブルース・リーも色濃くフィーチャーしてくれたことで、個人的には更に嬉しい作品となった。
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