この前、手塚治虫の『大空魔王』をブログでも取り上げたが、その後も手塚治虫の初期漫画の復刻版シリーズを買い集めている。
そして、先日大阪に行った際に難波のまんだらけで『きえた秘密境』の復刻版を発見し、思わず購入した。この作品は、僕が小学生の時に手塚治虫にハマって色々研究していた頃に確かどこかで見た記憶があり、とても印象に残っていた作品だ。どんな話しだったかは覚えていなかったので、恐らく当時読んでいなかったのだろうが、鮮やかな表紙のイラストは鮮明に覚えていた。
そんな、心のどこかで覚えていた作品にまたこうして40年ぶりくらいに巡り会えたのも何かの縁だと感じてしまい、より一層作品への親近感を覚えた。
しかしこの作品、手塚治虫のウェブサイトを見ても初期作品の中に記載されておらず、検索しても殆ど作品情報が無い。おかしいと思って更に検索してみると、本来のタイトルは『新世界ルルー』と言う作品名で当時雑誌に連載されており、それを纏めて単行本化された時のタイトルが『きえた秘密境』だったらしいのだ。僕は逆に『新世界ルルー』の方があまり馴染みがなかったので、この2作が同一作品であったことを今更ながらに知ってしまったことにも驚いてしまった。
それにしても、手塚治虫の初期漫画はなんとも魅力的だ。本の装丁や表紙のイラストは今見てもワクワクするデザインだ。僕が制作している絵本も、今思えば表紙の構成やイメージが手塚治虫の初期作品の表紙イラストにかなり影響を受けていると思う。スターウォーズの宣伝ポスターがそうであったように、作品の主人公たちを表紙に登場させ、物語のエッセンスをサマリーとして一枚の表紙に凝縮されていることで、ワクワク感が増長されるのだ。
そして物語自体が、どの初期漫画作品も漫画界での先駆的な試みがたくさん盛り込まれている点が見逃せないし、今になってその先進性に改めて驚かされる。
例えば、手塚治虫初の西部劇漫画である『拳銃天使』では、日本の漫画史上初の”キスシーン”が描かれて当時は読者が大きな衝撃を受けたらしい。今見ても全く驚くようなシーンでは無いが、当時子供向けに厳しく検閲されていた児童漫画の世界で、いきなりキスシーンを描いてしまったのは衝撃だったのかもしれない。これも手塚治虫が観ていたハリウッド映画の影響が色濃く出た一例だろう。
人間の体内に入り悪玉菌と戦う『吸血魔団』は、後にハリウッドで映画化された『ミクロの決死圏』のモデルになったと言われている。
『ふしぎ旅行記』は、当時まだ太平洋戦争敗戦から間もなく、民間人が自由に海外に渡航することが許されていない時代に、手塚治虫は既に世界を旅していたのだから驚いてしまう。また、主人公が幽霊となって旅するという設定も、当時としてはかなり斬新であったに違いない。
このように、手塚治虫の初期漫画は当時から発想が斬新だったのだ。今の次元では想像がつかないくらいに。子供達にたくさんの夢と希望、そしてその後を追いかけた多くの漫画界の巨匠たちに多大な影響を与えたのである。そしてその魅力は今も色褪せることが無く、僕を惹きつけ、刺激を与え続けてくれるのだ。
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