僕は芦川いづみ主演映画をDVDでいくつか持っているし、神保町にある小さな映画館、”神保町シアター”で頻繁に企画されている『恋する女優、芦川いづみ』シリーズの上映会イベントにはいつも足を運んでいるほどのファンなのである。

今年、デビュー65周年記念として、また3月末から神保町シアターで『恋する女優、芦川いづみ』を開催中。約1ヶ月間に渡って、計20本の芦川いづみ主演映画を上映している。

先日、この20本の中で『堂堂たる人生』という作品を鑑賞しに訪れた。昭和39年(1961年)公開のカラー作品だが、あの石原裕次郎と長門裕之と共演した娯楽作品である。主題歌も石原裕次郎が歌う。

神保町シアターに集まった芦川いづみファンは、殆どが老人(笑)。僕も決して若くは無いが、僕と近い年代の観客は殆どおらず、集まったファンは明らかに高齢者が中心であった。恐らく芦川いづみと同年代か、その前後、まさに人気絶頂当時に熱烈なファンだった人も多いのだろう。みな青春を芦川いづみと一緒に過ごした人々かと思うと、なんだか観客まで愛おしく感じてしまう。

まず感動したのは、今回65周年記念ということで、各作品の上映前に、会場に芦川いづみの”肉声”メッセージが流されたこと!このメッセージは、65周年記念に当たり、いまでも自分の昔の主演作品を観に来てくれるファンに対する感謝の内容になっており、明らかに最近(少なくともここ半年以内とかに)収録された肉声だ。これはファンにとっては感動的な出来事である。お目にかかることが叶わない今、生の芦川いづみを感じられる最大の経験なのだから。

声からは歳をとったことを感じさせたものの、それでも女優を引退してかなりの年月が経った今でも、ファンのことを想ってくれる優しさと気遣いが丁寧なコメントの端々から感じ取ることが出来、とてもジーンと来てしまった。まだ芦川いづみは生きているんだ!と。そして、自分と同じように高齢となったファンを想い、”皆さまお元気で”、と言うメッセージにも感動してしまった。同じ時代に生き続けるというのはこう言うことなのだと、痛烈に感じた瞬間であった。

さて、今回観賞した『堂堂たる人生』のストーリーだが、梼Y寸前の玩具会社を再建すべく、東奔西走する男女の活躍を描く明朗娯楽篇。

下町の寿司屋の娘からOLに転身する芦川いづみの活発なコメディエンヌぶりや、石原裕次郎・長門裕之との息の合ったドタバタも展開され、とてもバラエティ色豊かな作品に仕上がっているが、金策の為、XYZガスと言うハッタリ技術を持ちかけたりと、今観てもなかなか面白いストーリーだ。

石原裕次郎の魅力も満載で、世の中の女性がみな裕次郎ファンになったのもうなづけてしまう。若くてカッコいい裕次郎、そして可憐で美しい芦川いづみによる見事な化学反応は必見だ。

後に初代水戸黄門となった東野英治郎や、名優、宇野重吉なども頻繁に芦川いづみに登場するのもなんとも時代を感じさせる。この映画に登場する長門裕之がまたなんとも若い!
僕は、高度経済成長期の日本を舞台にした1950-60年代の日本映画になんだか妙に惹かれる。同じ理由で、石原裕次郎の作品も好きでかなり良く観ている。僕がちょうど産まれる直前の世界であり、当時の東京の街や人々にとてつもないエネルギーが漲っている点が今の映画には全く無い面白さであり、とても興味が湧くのだ。

この映画も今回初めて見たが、やはり映画館の大きなスクリーンで、しかもでデジタルリマスター版を観ると、当時の東京や大阪の映像が活き活きと蘇り、見事な臨場感を楽しめるので良いものだ。新たにとても好きな芦川いづみ作品の一つとなったし、石原裕次郎作品としてもかなり味わい深い作品であった。