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芦川いづみ祭り2024!第9弾 『人間魚雷出撃す』

毎年夏の終戦記念日が近づくと、多くの戦争関連番組などがテレビで放送される。そして僕も不思議と戦争に関する映画を観たくなる。あの悲惨で痛ましい戦争の中で多くの命が奪われた。戦争映画などを通して、この悲惨な過去のことを決して忘れてはならないと、毎年強く思い知らされる。

そんな中で、石原裕次郎、芦川いづみが共演した映画に『人間魚雷出撃す』という1956年に公開された日活のモノクロ映画がある。これまでDVDを買って持っていたものの観るのを後回しにしてしまっていた。しかし今年の夏に観たい戦争映画として、ついに観賞した。

『人間魚雷出撃す』は、あの人間魚雷と言われた“回天”で出撃した特殊部隊の若者たちを描いた作品で、『太陽の季節』の古川卓己監督作品だ。回天をテーマにした映画は何本か存在するが、これはその中でもかなりドキュメンタリー性が強く、淡々と事実関係を描いていく作品。海での戦闘シーンや潜水艦内部のシーンなど、かなりのスケール感とリアリティで描かれており、どこまでがセットなのかと思ってしまうほどなかなか良く出来ている。1956年の映画としてはレベルが高い。

物語だが、昭和20年7月初旬、すでに敗戦の色濃い頃、瀬戸内海の特別基地で若き“回天”特攻隊員たちは出撃に備えて連日猛特訓を行っていた。そして出撃を控えた彼らは故郷へと帰っていった。その中の一人、黒崎中尉(石原裕次郎)は、空襲で両親を失い、身寄りは兄だけになってしまった妹・洋子(芦川いづみ)と最後の別れを惜しむのだった。そして4人の若き特攻隊員たちは潜水艦伊58号で戦地へと向かう。回天4基を携えて….。

4人の特攻隊員たちを演じるのは、当時の日活人気俳優たち。若き石原裕次郎、葉山良二、長門裕之、杉幸彦。伊58号の艦長には森雅之が扮し、渋い演技を見せている。また、貴重なのは長門裕之が故郷に里帰りしたシーンで、弟として登場するのが実の弟でもある津川雅彦。この兄弟共演もかなり珍しい。映画全体としては、艦長の森雅之と石原裕次郎が主役、そして葉山良二と長門裕之が準主役くらいの位置付けだろう。そして、僕のお目当ての芦川いづみは、石原裕次郎演じる黒崎中尉の妹を演じている。また本作は、アメリカの戦後軍事裁判のシーンから始まるのだが、艦長が証言台に立っており、その通訳を若き岡田真澄が演じている。今観るとなかなか豪華な俳優陣である。

映画を観終わった感想だが、伊58号の中での隊員たちの様子や人間模様が上手く描かれており、回天の物語としてはなかなか良く出来ているが、ドキュメンタリー的なリアリティで描かれていることもあり、逆に映画として過度にドラマチックな演出もない。その分、映画としてのエンターテインメント性は思ったほど高くなかった。回天の特攻隊員になった過程や、トレーニング過程などをもっと丁寧に描いていれば、感情移入が出来たかもしれない。この点でちょっと物足りない作品であった。

石原裕次郎は、特攻隊員4人の中では最後に出撃する役で、機械トラブルでなかなか出撃出来ない時のもどかしさや、故郷に残してきた妹を思う複雑な思いなども交錯しながら、お国の為に命を捧げることを胸に誓いながら敵艦に突っ込んでいく姿を捉えている。しかし、石原裕次郎主演作品としての華々しい“見せ場”がやや少ないので、彼の魅力があまり発揮されていないようにも感じたが、これは裕次郎のキャリアでも比較的初期の作品なので、そもそもそのような企画ではなかったかもしれない。

そして最後に、最大のお目当てであった芦川いづみについてだが、彼女もまだこの時期は本格ブレイクする前の作品。ちなみに、芦川いづみは古川卓己監督作品への出演が本作を含め全部で5作品ある。『人間魚雷・・』では里帰りした石原裕次郎が、妹を演じる芦川いづみと対面するシーンと、回想シーンにチラッと登場するくらいで、決して出演シーンは多くない。兄を思って彼女が制作した小さな人形をお守りとして渡すが、裕次郎はこの人形をもって伊58号に乗り込む。しかし残念ながら、この兄妹最後の対面となるシーンや回想シーンもあまり大きな感動は生まれない。それでも、若い彼女の登場は映画で唯一の華をもたらしており、初々しいキュートな笑顔も一瞬見せてくれるのが大きな収穫ではあった。

全体としては、戦争映画としての見どころもあり、ドキュメンタリー的な上手さは光るものの、映画としての面白さはイマイチであると感じてしまった。折角の良い俳優陣も、そのキャラクターの背景をあまり描いていないことと、ドラマチックな演出をあえて抑えていることで、イマイチ感情移入が出来ないのが残念。それでも芦川いづみ出演作をまた一つチェック出来たことや、若き石原裕次郎の主演作として観賞出来た貴重な作品となった。        

尚、DVDには撮影のレアな舞台裏写真なども何枚か収録されており、芦川いづみのこんな可愛い笑顔の写真も収録されていた。これはなかなか嬉しい貴重な1枚である(笑)。

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