永井荷風と谷崎潤一郎の深い交友はよく知られていることですが
この二人をテーマに企画展が開かれたのは初めてなのだそうです。
それぞれの耽美的な世界を描く二人の作家はスキヤキの仲。
「いちばん身近な作家」谷崎は荷風先生のことをこう話していました。
二人は7才違い。永井荷風は山手の御坊ちゃま、谷崎は日本橋蛎殻町の下町っ子。
晩年には交差するように、荷風は玉の井など下町情緒を描き、
谷崎は絢爛豪華と言われるように、華やかな世界を描きました。
荷風に憧れに憧れていた谷崎。その谷崎を文壇へ導いたのは荷風。荷風無くしては作家・谷崎潤一郎は生まれなかった…というところなのでしょうか。
小さめの展示室二つ。第一章から第五章まで、テーマごと細やかに展示されています。生まれから、青春時代、仕事、戦争からさまざま。とても嬉しい時間を過ごしました。
<二人の文字>
それぞれの直筆を拝見すると、なんとなく対照的な感じがして興味深かった。
荷風先生は流麗です。原稿や書簡を読みながら、いや、眺めながらその音を聞いていました。そして「断腸亭日記」の筆跡!…なんとも粒だち輝かしい。後世に残すべく清書して書かれたその字は、本当に美しい。書き損じがほとんど無く、小さな原稿に小さく綺麗に書かれていて、これも見応えが。下書きに使っていた、モレスキンみたいな小さな黒い手帳を、きっといつもポケットに入れていたのだな。
谷崎の字は若い頃から老年まで見比べると面白い。所々、絵のように丸くふくらむ癖が、語る時の語気のようで楽しい。青年から作家へと成りゆく様が映っているように思われました。書き損じの消し方にも個性の出るところですが、谷崎は真っ黒く塗り潰しています。下に書いた文字を完全に読めなくなるようにすると、正しい文字がつながってすっきり読めますが、その為かどうかはわかりません。
直筆文字ばかりでは無くて、活版印刷の活字を見ると、あの直筆原稿をみながら並べられる鉛の活字や職人さんの指先まで想像されてなんとも嬉しい。
発禁になった「ふらんす物語」の初版本がありました。
マホガニーの革がたっぷり。それに金字で表題が書かれていました。
本は贅沢品だったのですね。
職員さんが私のそばでいろいろ案内をして下さり、感謝しています。
今日、12月3日は永井荷風先生のお誕生日。
「お誕生日おめでとうございます」というと貰えるカードを頂きました。
昭和十六年十二月初三。晴れて暖なり。
我が生まれし日なれど祝盃を挙げる所もなく語るべき
人も尋ね来らざれば平日の如く飯を炊き庭を掃き
土州橋に行きて薬を求め灯りともし頃に帰る。
(断腸亭日記より)
「お誕生日おめでとうございます」というと貰えるカードを頂きました。
昭和十六年十二月初三。晴れて暖なり。
我が生まれし日なれど祝盃を挙げる所もなく語るべき
人も尋ね来らざれば平日の如く飯を炊き庭を掃き
土州橋に行きて薬を求め灯りともし頃に帰る。
(断腸亭日記より)
荷風先生は最後、市川市の自宅で亡くなり、通いの女中さんに発見されました。谷崎は家族に見守られて亡くなりました。しかし谷崎は荷風の生涯独居生活をうらやんでいたそうです。_でも谷崎さんには向かなかった気がします。皆さんはどう思われますか…?
図録🦋…色が美しい✨
頁をめくると鮮やかな黄色。
荷風生誕140年、没後60年を記念。
「永井荷風と谷崎潤一郎展」開催中。
【会期】2019年11月2日から2020年1月19日
【会場】市川市文学ミュージアム