前回、前々回とスピーカーケーブルの端末処理方法についてご説明してきました。
今回は、ケーブル工房TSUKASAで製作販売しているスピーカーケーブルはどのように端末処理を行なっているかを、ご紹介したいと思います。
対象のスピーカーケーブルは 5000シリーズのWTS-SP5500です。
このスピーカーケーブルは、ご購入時に端末処理についてYラグ端子とバナナプラグを選択できるようになっています。
Yラグ端子は一般的な圧着ですが、バナナプラグはネジ止め式のものを音質優先でハンダ付けで接続しています。
以下、詳しくご説明させていただきます。
<Yラグ端子の場合>
Yラグ端子の場合は、ORB HL-YLiを使用して専用の圧着工具により接続しています。
作業方法としては一般的な方法です。
圧着後、極性を識別するため、赤(プラス)と黒(マイナス)の熱収縮チューブを被せています。
<バナナプラグの場合>
バナナプラグの場合は、AEC Connectors BP-208GCを使用します。
このバナナプラグはコストパフォーマンスが高く、円筒波型スリット式によりスピーカー端子との接触面積が大きく、接触抵抗を低く抑えることができ音質的にも優れたプラグです。
このバナナプラグはネジ止め方式になっており、接続するスピーカーケーブルの適合芯線サイズが5.5sq(断面積5.26m㎡、直径2.6mm)の設計となっています。
一方、ケーブル工房TSUKASAのWTS-SP5500の芯線は、プラス側に直径1.2mmの単線を2本、マイナス側に直径1.2mmの単線を2本使用しています。
芯線の断面積は、2本の合計が2.26m㎡相当になります。
WTS-SP5500の芯線2本(合計断面積2.26m㎡)を、バナナプラグ BP-208GC(適合芯線断面積 5.26m㎡)にネジ止めしようとすると、芯線の断面積が小さいため十分な力でネジ止めすることができません。
そこで、バナナプラグのネジ穴2箇所のうち、先端側の1箇所を使ってハンダ付けによる接続を行うこととしました。また、根元側のネジ穴は芯線の固定用として使用します。
この方法により、芯線をバナナプラグと確実に接続でき、Yラグ端子の圧着と同レベルの音質を確保しています。
使用するハンダや接続作業を以下にご説明します。
<使用ハンダ>
使用するハンダで音質は変わります。
本スピーカーケーブルでは、解像度が高くダイナミックな音質で単線と相性のよいビンテージハンダ「NASSAU AT7241」を使用しています。
このハンダは極太で、ウェスタンエレクトリックの機器に使用されたハンダです。
尚、バナナプラグ BP-208GCに芯線をハンダ付けするためには、十分な熱容量を持つ「はんだこて」が必要です。
工房では goot(太洋電機産業)の温調セラミックヒーターはんだこて「PX-401」を使用しています。
また、こて先の温度管理も重要で gootのこて先温度計「TM-100」を使い、ハンダ付け前にこて先の温度が 340度±1度になるように調整しています。
340度の温度設定は経験値で、これより低いとハンダが上手く流れません。(340度はこて先の温度ですので、実際のハンダ部分はもっと温度が下がります)
<バナナプラグの接続作業>
① 接続前の芯線
直径1.2mmの単線2本の状態です。
この単線は薄い絶縁被覆がかかっていますが、写真はこの絶縁被覆を事前に剥離しています。
半透明のチューブはテフロンPTFEで、絶縁体としては空気に次ぐ優れた特性を持っています。
② 予備ハンダの実施
先ず、芯線に予備ハンダを行います。
③ 芯線のバナナプラグへの固定
バナナプラグの根元側のネジを使って、芯線を固定します。
芯線2本を予備ハンダでまとめているため、ネジを締めてもバラけることがありません。
尚、テフロンPTFEチューブとバナナプラグの根元に少し隙間があります。
これはバナナプラグをハンダ付けした後、芯線を捻るときに長さが短くなりますので、その短くなる分の間隔を空けています。
芯線を捻るとバナナプラグとテフロンPTFEチューブとの隙間がなくなります。
尚、芯線を捻る理由は、捻ることにより芯線の不要振動が抑えられ音質が良くなるためです。
④ バナナプラグを180度回転
バナナプラグを180度回転させると、先端側のネジ穴から予備ハンダを行なった芯線が見えます。
芯線を根元側(写真の裏)のネジで固定しているため、芯線がネジ穴に押し付けられた状態になり密着しています。
⑤ ハンダ付けの実施
ハンダをネジ穴に流し込んで、接続したところです。
バナナプラグが十分に温まらないと、確実で綺麗なハンダ付けになりません。
はんだこての当て方やハンダの流し方、ハンダを流す量にコツがあります。
尚、ネジ穴の縁にハンダが少し盛り上がりますので、ヤスリで削って綺麗に仕上げます。
⑥ 芯線を捻り熱収縮チューブを取付
芯線を捻り、熱収縮チューブを被せて完成です。
尚、バナナプラグ付属の金属ケースは使用しません。
これは、この金属ケースを使用すると僅かに付帯音が乗るためです。
また、プラスとマイナスの間隔が狭いスピーカー端子で使用した場合、スピーカーケーブルに力が加わった際にショートするおそれがあるためです。
下の写真は端末処理が完成した状態です。
最後に、写真をご覧いただくと分かるように、赤と黒の熱収縮チューブはプラグの先端部分しか被せていません。
これは、熱収縮チューブは絶縁体としての性能がテフロンPTFE(半透明の部分)と比較すると、かなり落ちるためです。
実際に開発段階で写真のテフロンPTFE全体に熱収縮チューブを被せたところ、明らかに音質が低下しました。
このため、熱収縮チューブは最低限の使用としています。
今回は、ケーブル工房TSUKASAのバナナプラグの取付方法をご紹介いたしました。
ケーブル工房TSUKASAのスピーカーケーブルは単線のため、撚線のスピーカーケーブルでは同じようにできない部分もあるかも知れませんが、このような方法もあるということでご参考になれば幸いです。
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