celtis

日々思うことを

書く

2022-06-30 10:20:00 | 日記
文章を書く時に
頭に置いてある、という程大袈裟ではないけれど
気にかけている明治の作家がいる

「Kさんは勢よく燃え残りの薪を湖水へ遠く抛つた。薪は赤い火の粉を散らしながら飛んで行つた。それが、水に映つて、水の中でも赤い火の粉を散らした薪が飛んで行く。上と下と、同じ弧を描いて水面で結びつくと同時に、ジュッと消えて了ふ。そしてあたりが暗くなる。それが面白かつた。皆で抛つた」
志賀直哉「焚火」




文明はあらゆる限りの手段をつくして、個性を発達せしめたる後、あらゆる限りの方法によってこの個性を踏み付けようとする。一人前何坪何合かの地面を与えて、この地面のうちでは寝るとも起きるとも勝手にせよと云うのが現今の文明である。同時にこの何坪何合の周囲に鉄柵を設けて、これよりさきへは一歩も出てはならぬぞと威嚇かすのが現今の文明である。
漱石「草枕」

谷崎のような美文、芥川のような緊張感のある文章には馴染めないけれど
志賀直哉の簡潔で目の前に絵が描かれていくような美しさ
夏目漱石の文章は
戦地に赴く知人を見送る停車場で動き始める機関車の表現からの展開

小説の神様と文豪には
遠く及ばないけれど
簡潔で思いが届けられる美しい文章を書いてみたいものです