さて、前回書きましたように、
何か別な新しい発想で「観光と農業の両立」が出来ないものか?
僕程度の写真家でも街作りに何か役立てる事は無いか?
ずっとその事を考えてきました。
美瑛町の観光は夏の一極集中です。
農作業の一番忙しい時期にわんさと観光客が訪れ、
結果として色々トラブルも起こります。
もちろん町民も行政も
「観光客のマナー違反」を何とかしようと取り組んでおりますが、
なかなか簡単には行きません。
やはりその時期は農作業の一番忙しい時である事、
また観光客が勝手に畑に入る事で作物への影響が大きい事等、
どうしてもこの時期の観光には問題が起きやすいのです。
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そこで僕はここ数年、冬について考えていました。
実は僕が景色として好きなのは雪の美しい冬なんです。
被写体としては最高です。
しかし多くの方は「美瑛の雪景色」の素晴らしさを知りません。
何とか冬の雪景色の素晴らしさを日本はもちろん、
世界の人達にも知らせて見に来て頂く事は出来ないか?
僕は時間がある時にいつもそう考えていました。
しかも農家の方も冬は農閑期に入るので、
観光客に対して何かビジネスをして協力して頂けないか?
観光客と農家の双方にメリットのある方法を考えられないだろうか?
そんな事を漠然と考えてきました。
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きっかけは昨年のクリスマスです。
たまたま世界のクリスマスの映像を見る機会がありました。
素晴らしい北欧の手作りのクリスマス映像、
あるいは雪の全くない南米のクリスマス等、
世界のクリスマスの映像が眼に飛び込んできました。
そこである事に気がつきました。
僕が素晴らしいと思った映像には全て共通点があったのです。
それこそ僕が自分でも写真を撮りたいと思った全ての映像は、
どれもライティングが美しかったのです。
要するに、光を使って、
彼らは自分達で見事な「被写体」を創作していたのです。
それらはまさにアートでした。
僕は思いました。
たしかにこの映像は凄い。素晴らしい。
それは認めます。
しかし、我々の街でも出来るはずだ。
それも世界から見に来たくなるような、
美しい「被写体」を創作出来るはずだ。
なぜならこの街の雪景色は何もしなくても素晴らしい。
元々の素材が良い。
だからこれを上手にライティングするだけで、
世界に例の無い素晴らしい「夜の雪景色」を
この広い丘の中にいくつも創る事が出来る。
僕自身が自分で写真を撮りたくなるような「被写体」、
そういう物を創作出来れば必ず観光客は来る。
雪の降る「青い池」を世界に紹介したように、
ここ美瑛町でなければ見れない様な「夜の雪景色」を写真に撮り、
世界に発信すれば良い。
必ず注目される!
僕はそう確信しました。
・・・・・
もちろん考えるのは誰でも自由です。
しかも考えるだけならお金もかかりません。
また何時もここに書いています様に、
口だけなら大阪城も建つわけです。
実際問題として実行する事がとても難しいのは直ぐに分かりました。
色々な方とこの事でお話しましたが、
多くの方には「面白い考えですね…。」
そんな感じで受け止められるだけで協力して頂く事は難しい。
すぐに壁にぶち当たりました。
このまま今年も雪が融けてしまえば、
来年まで何も出来ないで終わる。
そうすればきっとまた来年も何も出来ないで終わり、
結局永遠に何も出来ないだろう。
そう考えて先日、
美瑛町の宿の経営者が集まる「宿部会」に、
久しぶりに参加しました。
そこで僕は自分の考えを話しました。
多くの方は今まで通り、
反対もしませんが積極的な賛成もしません。
ただ黙っているだけです。
しかし少数でしたが、
「ぜひその企画を進めて欲しい!」
そう仰る方が現れました。
そして具体的にその中の2人が、
我々も費用を負担するから、
「まずは百聞は一見にしかず、実際にやってみよう。」
そう言って下さり、
ついに行動を起こす事になったのです。
すでに3月に入り雪質も悪くなり、
まもなく農家さんが「融雪剤」を蒔き始めます。
そうしたらもう今年の撮影は出来なくなります。
一日もはやく行動しなければいけません。
投光器や発電機、トラック、人材等の用意が必要であり、
しかも雪の降らない日に撮影する必要があります。
また何よりも他人の私有地である畑をライトアップする以上許可が必要です。
しかもどこでも良いわけではありません。
世界から観光客を呼ぶためには、
写真を撮りたくなるような素晴らしい「被写体」を創作する必要があります。
ロケハンしてその場所を捜し、
事情を説明して許可を頂かなければいけません。
結局限られた予算と諸事情により、
ライティング出来る日はたった2日間だけになりました。
しかも撮影当日に分かったのですが、
当初僕が考えていた投光器とは違いました。
僕が頭の中で描いていた「作品」とはかけ離れてしまいました。
そして撮影当日、
夕方までは夕焼けまで見えていた天気が、
撮影時間になると、まさに嵐の状態。
外で立っている事さえ辛い様な突風と雪が吹いてきました。
見事に初日は失敗です。
使える様な写真は一枚も撮れませんでした。
この嵐の様な風の音が、
「お前になんか撮らせるものか!」
そう言っている様に聞こえました。
僕の完全な負けでした。
それから数日間は天気が悪く撮影出来ない状態が続きました。
しかしそれがかえって幸いしました。
その間にじっくり考える事が出来たからです。
まず使える投光器がスポットタイプでなく拡散型である事、
また本来は撮影に4台は必要なのに2台しか調達できなく、
普通に撮れば立体感のある写真が撮れない。
そして泣いても笑ってもあと一回しか撮影チャンスがない。
そこで昼間ロケハンして撮影場所を変える事にしました。
・・・・・・・・
そもそも冬の美瑛は曇りの日が多く、
一週間に2日ないし3日位しか晴れません。
ご覧下さい。
この様に空が曇っていると、
雪と空の区別がはっきりせず、
たとえ有名な木や林であっても平面的になり、
一般の観光客の方には被写体として面白くないのです。
我々写真家は青空で太陽の出ている天気の良い日に、
何時でも撮影する事が出来ます。
また曇った日であってもそれなりの写真を撮れますが、
せっかく遠くから来た観光客はこれではがっかりします。
そういう観光客を楽しませて喜ばせるような「被写体」を創作する必要があるのです。
そしていよいよ撮影当日、
まずは日中の風景をご覧下さい。
ご存知のように有名な例の木です。
しかし週末なのに誰も見に来ていません。
それはなぜか?
写真でご覧頂くと分かります様に、
被写体としての面白さもインパクトもないからです。
この様に色の無い変化の無い景色は、
一眼見るだけなら良いのですが、
長く見ていると変化が無く飽きるのです。
よって普通の観光客の方が写真を撮っても面白くありません。
ですから見物客がいないのは当然です。
しかしその夜、
たった二つのライトを当てるだけで劇的に変化します。
ご覧下さい。
これが光のマジックです。
たった二つの投光器でここまで雰囲気を出せるのです。
写真を撮りたいと思わせる「被写体」を創作出来ました。
実は良く見て頂くと、
細かな雪が降っています。
木の根元の明るい光の部分をご覧頂くと分かると思います。
しかしこの様に下からライトを当てますと、
降っている雪さえ幻想的に見え、
雰囲気作りに役立つのです。
さてもう一枚別な有名な場所をご覧下さい。
やはり昼間撮影しました。
美瑛が好きな方なら皆さんご存知の場所ですが、
やはり曇った天気ですと、どうしても丘の稜線、
そして影さえも見えなくなるのでこの様に平面的になります。
そこで本当は林と雪の丘両方を照らしたかったのですが、
二つしかない投光器ではそれは出来ません。
そこで丘の稜線を照らす様にして、
また神様が与えてくれたブルーの光も使う、
すなわちブルーモーメントの時間帯に撮影しました。
ご覧下さい。
美しい雪の丘を。
この時間この瞬間に、
この場所に居られた方は幸せです。
本当に美しい「雪景色」が見れたのです。
はっきり言いまして、
写真より実際にご覧頂く景色の方がスケールが大きく美しいのです。
逆に言えば、
だからこそ美しい「被写体」を創作して写真に撮り、
世界にどんどん発信する必要があるのです。
そうすれば世界中から見に来た人達が喜び、
そして写真を見る以上に実際の雪景色に感動して、
ご自分でも写真を撮られて楽しまれて帰るのです。
・・・・・
最後になりましたが、
今回多くの方のお世話になりました。
投光器等機材一式を貸して下さった会社の社長様、
またとても寒い中、投光器をずっと手で持たれて、
僕の指示通りに光を照らして下さったお二人に、
とても感謝致します。
特に撮影は、一回の露光時間が長いので、
投光器を動かさない様にしなければいけません。
これは風もある寒い中ではとても大変な労働です。
本当にありがとうございました。
そして私有地である畑に入る事をお許し頂き、
今回の企画にご協力下さいました農家の皆様、
ありがとうございました。
実際に実行できる様にするためにも、
地主である農家さんとじっくり話し合い、
未来につながる街作りの一環として、
協力しながら新しい事が出来ればと考えております。
そして最後に、
無関心な人が多かったこの街で、
僕にヤル気と行動力を与えてくれた志の高い二人の友人に、
心から感謝致します。
もちろんまだこの企画は始まったばかりです。
一歩前に進んだに過ぎません。
しかしこの一歩が無ければ前進も無い訳ですから、
今回の行動はとても大きな一歩と言えるでしょう。
目標は大きく、今年のクリスマスでの実現です。
頑張ってこの企画を進めていきたいと考えております。
どうか皆様の応援、よろしくお願い申し上げます。
長々お読み下さいましてありがとうございました。
追伸
早速ご意見頂きました。
「自然に手を加えるのはいかがなものでしょうか?
自然は自然のままが宜しいと思います。」
僕がライトアップしようとしているのは農地です。
もちろん手など一切加えるつもりはありません。
ただ簡単に言えば、夜のほんの数時間だけ、
この農地を見える様にする。それだけです。
都会のイルミネーションとは全く発想が違います。
あくまでも自然の木や雪の積もった畑の稜線をそのまま照らして見せるのです。
もちろん写真の「物撮り」と同じでライティングにセンスは必要です。
しかし大切な事はこの丘の畑は元々素晴らしい被写体なんです。
ただその素晴らしく魅力的な被写体が、
夜は暗くて見えないだけなんです。
それを美しく見せて世界に紹介したい。
僕はそう考えています。
誰もした事が無い試みですから反対意見も多く出るでしょう。
全てはこれから理解が得られるよう努力していくつもりです。
さらに追伸
ここ数日で貴重なご意見をたくさん頂きました。
ありがとうございました。
賛同される方が多いようですが、
反対意見も頂いております。
もちろんどんな意見であろうと、
色々な考えを聞かせて頂く事は嬉しいです。
正直に申しまして、
僕個人としましてはこの企画を実行してもしなくても構わないのです。
あくまでも美瑛町民の皆さんの意見によって決めるべきだと思っています。
特に夏の観光と違い、直接農地をライトアップしますので地主である農家さんの協力が絶対に必要です。
ですから当然実行する場合は、農家さんに利益がある事を最初から考える必要があります。
もちろんこれも相談して決定する事です。
今回の試験的な撮影では農家さんにご協力頂けましたが、
実際に行うかどうかはこれから話し合う課題です。
また僕の立場は、あくまでも企画の提案です。
閑散期である冬の集客を渇望している町民の皆様に対して、
プロ写真家として出来る提案をさせて頂きました。
実行するかしないかの決定は、
あくまで地主(農家)さんとそれを実行したい町民との今後の話し合いによります。
もちろん僕は最初から何が何でも実行しようなどと考えていません。
反対意見が多数を占めるならしなければ良い事です。
ただスキー場やゴルフ場の開発と違い、
自然を全く壊さないのですから、
もし可能であるなら
一度位試しに実行する価値があるのではないか?
そう考えて提案させて頂きました。
全ては今後の話し合いによります。
ケント白石
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