Kent Shiraishi Photo Blog

北海道美瑛町の大自然や身近な写真を、
海外へ配信するArtistの呟き。

思い出の一枚 part 7 - 虹と共に去りぬ

2014年09月10日 | 思い出の一枚
思い出の一枚 part 7 - 虹と共に去りぬ
誰にでも思い出の一枚とよべる写真があるはずです。

・・・・・・・・・
いつになく今日は暑い。
夏の日だった。
彼女と僕は赤いプジョーのオープンカーで走っていた。

普通女性は日に焼けるのを嫌がり、
オープンで走るのを嫌う人が多い。
しかし彼女は違っていた。

太陽が眩しい位暑い日はもちろん、
今にも雨が降りそうな日であっても、
降ってさえいなければ屋根は要らない。
そんな感じの女性だった。

昨日些細な事で喧嘩をした。
だから今日は会話が無い。
札幌から旭川に向けて高速を走っていた。
30分以上黙って走り続けた。

「オープンにして!」
彼女が初めて口を開いた。

「ここは高速道路だよ。
次のパーキングエリアまで我慢して…。」
そのまま10分ほど走りパーキングエリアに着いた。
ドアを開けようとすると、
「先にオープンにしてから行って!」
そう言われた。
言われたとおり屋根を開けると、
雨が降りそうな雲行きの悪い天気だった。

「あ~空気が美味しいわ!
狭い車内で一緒に居ると息が詰まりそう…。」
この言葉を聞いて僕達の関係は既に重症だと感じた。

外で一服して戻り、
車を発進させた。

20分位走ったところで雨がポツポツ降って来た。
しかし次のパーキングエリアまで後5分程かかる。
車を停めるかどうするか?
迷っているうちに本降りになった。
慌てて端に停めて屋根を戻した。
その間約30秒。
しかしかなり濡れてしまった。

後部座席にいつも置いている袋からバスタオルを取り出し、
彼女に渡そうとすると、
「ほっといて!」
「心の汚れを洗い流しているんだから。」
そう言った。

そのまま5分程走った頃、
天気は回復し晴れてきた。
「こういう時は素晴らしい虹が出るんだ!」
僕がそう言うと、
彼女は何か軽蔑したような顔で僕を見た。
それを気がつかない振りをして走っていると、
左手に大きな虹が現れた。
なかなか素晴らしい虹だった。

しかしパーキングエリアまではまだだいぶ距離がある。
それまでこの虹はもたないきっと。
「あ~虹が消えてしまう。」
そう言うと、
彼女はまたさっきと同じ様な顔をして僕を見た。
でも僕はそんな事は気にせず、
車を停めれないか考えた。
しかしさすがに交通違反をしてまで端に停める気はない。

ちょうど前方にバス停が見えた。
もちろん高速バス用の停留所である。
一般車両は停めてはいけない。
しかし安全に停めれる場所はそこしかなかった。
後ろからバスが来ていない事を確かめてから、
そこに停めた。

直ぐに屋根を開けた。
後部座席からカメラを取り出し、
車の中で撮影体勢に入った。
そしてシャッターを切ろうとした瞬間、
ファインダーが暗くなった。

眼を放して見ると、
彼女の手がレンズを覆っていた。
「写真と私とどっちが大切なの?」

「またその話かい。
その事は昨日話したじゃない。」

「だからどっちが大切なの?
答えてよ!」

「……。」

僕は何かを話そうとしたが、
ちょうどその時短くサイレンが鳴った。

「そこに停まって何してるんですか?」
「すぐにそこから移動して下さい。」
警察官の声だった。
僕は彼らに軽く頭を下げてから、
左の空を見た。

既に虹は消えかかっていた。
そして彼女の顔を見ると…
これは見ない方が良かった。
今でも時々その顔を思い出してうなされる事がある。
まさに悪夢だ。

その後全く会話は無く、
旭川駅に着いた。
彼女は降り際に一言、
「私は虹と共に消えるわ!
さようなら。」
そう言った。

僕はオープンにしたまま、
「Air Supply」を聴いた。
僕が20代の頃の懐かしい曲だった。
「Lost In Love 」
ちょうど二十歳の時に聞いた曲だ。
この時も大失恋した。

でも失恋も十数人迄は覚えているが、
それ以上は忘れた。
人間の一番優れた才能は忘れる能力だと思う。
その才能が無ければ、
僕はとっくに死んでる。

歌っている間に美瑛町に入り、
白金街道を走っていると、
素晴らしい虹に出会った。

車を道路の端に停めて撮影した。
今度は誰も邪魔しない。
素晴らしい虹が撮れた。

この瞬間僕の気分は高揚していた。
他の事は全て頭から消えていた。
もちろん彼女の事も。

車に戻って思いだした。
「写真と私とどっちが大切なの?」
空を見ると虹は消えかかっていた。

「虹と共に去りぬ」
思わずそう呟いた。


「虹」 - 北海道美瑛町 7月

ケント白石
北海道を世界に売り込む侍写真家
Professional & SAMURAI Photographer Kent Shiraishi
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