はじめての文学 小川洋子小川 洋子文藝春秋このアイテムの詳細を見る |
このシリーズでは村上春樹についで購入してしまった。「冷めない紅茶」「薬指の標本」「ギブスを売る人」「キリコさんの失敗」「バックストローク」の短編からなる本である。これは著者が自分で編集した。
いずれの作品もちょっと幻想的な雰囲気があり、読後感は少し混乱している。
「冷めない紅茶」においては、主人公と同級生のK君と元図書室の司書との関係はどうなのか? 一見恋人同士にみえるK君と彼女の関係。どうにも凡人の私にはよくわからない。
「薬指の標本」では、風変わりな幻想的「標本屋」が出てくる。そこの主人、弟子丸氏と秘書である主人公の関係、黒い靴、2度目の要望を持った顧客の「顔の火傷」の標本、その標本がどこにも見当たらないこと、顧客が標本技術室から消えたこと、謎めいている。そこに主人公は自分の薬指の傷の標本を求めに行く…。
「ギブスを売る人」は遠い親戚の伯父についての話。これはへんてこりんな愉快な話である。まずは一読あれ。
「キリコさんの失敗」も万年筆に関する幻想的話である。キリコさんは失敗の代わりに、主人公のなくした万年筆を取り戻す。
「バックストローク」は背泳に邁進する弟の話である。付随して、その教育ママの話が出てくる。物語の最初は東欧のナチスの元ユダヤ人収容所にあったプールから、弟の手がフラッシュバックされる。弟はある日突然、左手が下がらなくなり、五輪を目指していた水泳を止めざるを得なくなる。そして、病院に入院する。そして、毎月1回手紙が来る。いずれもプールのことが書いてある。哀話の中に何か救われるものがある。