アフリカの蹄 (講談社文庫)帚木 蓬生講談社このアイテムの詳細を見る |
中丸薫がどこかで推奨していたので手にしてみた。
これは新しい日本人像を描いている。舞台は明らかにアパルトヘイトが存在した南アフリカである。主人公の作田信は医者で心臓移植技術を学びに南アに留学した。そこで、黒人差別の実態に触れる。
勤務間外に町のスラム地域のサミュエルの診療所を手伝う。それだけで病院の白人の教官や同僚医師から嫌がらせを受ける。なぜか、衛生局長のフォックスの叱責を受ける。黒人解放運動の闘士を兄に持つソーシャルワーカーのパメラとも知り合う。パメラとは恋仲になり、将来結婚する。フィクションの中はとはいえ、ここがすごいところだ。頭で黒人差別はいけないというスタイルではなく、人間的に黒人との境界を超えてゆく。
物語はミステリー仕立てである。黒人の子供たちの間に奇妙な病気が進行する。サミュエルはウィルス性の病気を推測するが、その証拠をつかめない。作田は一計を案じて、旧知のレフ教授に相談を持ちかけて鑑定してもらうと、WHOが絶滅を宣言したはずの天然痘ウィルスであった。
ところが、大量のワクチンを必要としたのに、米国の防疫センターの火災により、即座にワクチンが手に入らない。そこで、今回の天然痘の流行が人為的な政府の政策ではないかとの疑いが生まれた。
そこで、このウィルスを持ち出して、隣国のボツワナでワクチンを製造して、持ち込む事を作田は実行する。ここに政府の陰謀と激しくぶつかるサスペンスが発生する。
エリートである医者の主人公が頭ではなく、自分の経験を通じて、アパルトヘイトの現実にぶつかっていく様は読んでいて痛快である。