サラダ記念日 (河出文庫―BUNGEI Collection)俵 万智河出書房新社このアイテムの詳細を見る |
丸谷才一氏が「猫だって夢を見る」の「七月六日のこと」の中で俵万智の短歌を誉めていたので、何年か前に手にしていた。今回再読する。
好きな歌は表題作にもなった次の歌である。
○「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
これには丸谷氏の解説が必要だろう。
まず、この「記念日」の当意即妙な使い方に感心する。何でも記念日にしてしまう社会の風習を手玉にとって、恋人達の快楽のために利用した。サラダは痩せたい女性の願望を表しているし、みずみずしさを一瞬の内に表している。
もうひとつは「七月六日」のことである。
文月や六日も常の夜には似ず
芭蕉の句に上記の句がある。文月の旧暦7月は6日から色っぽいというのは日本の常識であった。この文学的伝統に動かされて、若い男女を7月6日に会わせてしまった。ここは丸谷氏の解説を読んでほしい。
このほか気に入った歌は次の通り。
○「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの
○たった一つのことが言えずに昼下がり野球ゲームに興じる二人
○我という三百六十五面体ぶんぶん分裂して飛んでゆけ
○食卓のビールぐらりと傾いてああそういえば東シナ海
○モーニングコールのあとのフランスパン一段飛ばしに昇れ階段
○万智(まち)ちゃんを先生と呼ぶ子らがいて神奈川県立橋本高校
○母と焼くパンのにおいの香ばしき真夏真昼の記憶閉ざさん
○たて波とよこ波交差するところアンプの上に立つ缶ビール
(ジャズコンサート・IMAの後に詠める歌)
○子どもらが十円の夢買いに来る駄菓子屋さんのラムネのみどり
○注文はいつも二つのアメリカン 相思相殺かもしれないね