昨年5月に美術家のクリスト氏が亡くなった喪失感がどうにも消えませんが、このたび公開されたドキュメンタリー『クリスト ウォーキング・オン・ウォーター』(アンドレイ・M・パウノフ監督、15日まで上映)を観ながら、あらためて回想し、あらためて尊敬の念をいだきました。
写真はそのチラシ。2016年にイタリアのイゼオ湖で行われたプロジェクト≪フローティング・ピアーズ≫の作業現場をくわしく撮影したもので、芸術作品の実現に付きもののトラブルや人間関係の葛藤、そして情熱の持続の困難さを、包み隠さず映し出される内容。作家の生々しい姿はもちろん、その活動を支える人々の仕事ぶりと熱と心意気がくっきりと映し出されている点は実に的確で、とてもリアリティのあるドキュメントでした。
「フローティング・ピアーズ」は、湖の水面に16日間だけ3キロの道を浮かべて人々が水の上を歩くことを実現する巨大な作品で、1970年代から作業が始まり、東京のお台場で行う計画もあったのが拒否され、2016年イタリアでついに実現したものです。このプロジェクトについて思ったことは当ブログに2017年にも少し書きましたが(link)、その実現された風景は息をのむ美しさです。
クリスト氏と奥様のジャンヌ=クロード氏のお二人が考え実行してきた、想像を絶するスケールの美術の実践は、僕にとっては本当に脱帽すべきことでした。彼らの制作の根にある姿勢と情熱と経済感覚に、僕はとても感動してきました。
一つの発想を何十年かけてでも実現すること。どんなに大きなプロジェクトでも、助成金を受けず、自己資金と売上だけで実行すること。超巨大なスケールで、それらを成し遂げてきたクリストとジャンヌ=クロードの仕事は本当に素晴らしいと思います。
個人が自由に、自立して、自らの責任のもとに、どこまでイメージに忠実で妥協の無い作品を実現できるか。その壮大な実験と決行の人生は、大切に記憶されるべきものだと思います。
クリスト氏の新たなプロジェクトは、パリの凱旋門をまるごと膨大な量の青い布と赤い糸で梱包する「L’Arc de Triomphe, Wrapped」で、2020年4月6日~19日に行われるはずだったのがコロナ禍のせいで延期になってしまい、氏は5月に亡くなってしまいました。意志を継いで2021年9月18日~10月3日の実現を目指して進行中だそうです。故人の心を響かせながら、秋のパリの中心に、どんな風景が出現するのでしょうか。その実現のときに向けて、私達は、その風景を楽しみ遊ぶことができる状態に、世界を回復してゆくことができるでしょうか。
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