櫻井郁也ダンスブログ Dance and Art by Sakurai Ikuya/CROSS SECTION

◉新作ダンス公演2024年7/13〜14 ◉コンテンポラリーダンス、舞踏、オイリュトミー

杉本博司「ロスト ヒューマン」展にて(感想)

2016-09-25 | アート・音楽・その他
同じ写真でも、杉本博司さんの展覧会は特異な趣きがあった。

インスタレーション、建築、舞台、あまりにも多様なご活躍で現代美術の旗手として有名なこの人を僕は写真家として認識してしまうのは、最初に観た沢山の海の(波と水平線と空だけを)映した写真の数々が余りにも強く心に残っているからか、あるいはこの人から差し出されるモノも空間も空気もが写真のようにピタリとした静止感をもたらすからなのだろうか。

恵比寿に新装された写真美術館で開催されている「ロスト ヒューマン」は、非常に多彩で盛り沢山の内容だった。

展覧会の場は、杉本氏の驚愕するような歴史的収集物とテキストに満たされ、それらは不穏な匂いを強烈に放つ。

会場で配布される展示リスト、これが有ると無いでは納得度が大きく違う。普通、展覧会では手ぶらで歩いて感性だけで観ることも多いが、ここでは展示の一物一物の品目名や年代が作品鑑賞のカギにさえなる。

このリストと眼に触れる物一つ一つを擦り合わせ、己れの知識に重ねながら歩くと、次第に人類の暴力と罪の歴史が脳に焦点を結んでゆく。

とても色々な味わい方があるような展覧会だった。

克明に見て感じて考えて、読み解いてゆくこと。それが楽しい展覧会だった。

しかし、その無数の要素のなかで、要所要所に配されている額装された静かな白黒写真の一枚一枚の美しさはまた格別だった。

それらの美に吸い寄せられて、また無数のモノに眼を戻し、ということを繰り返しゆくうち、まるで方丈記の世界に迷い込んだようでもあった。

目の前にある様々なモノの佇まいを味わう面白さ、精密な写真一枚に向き合う趣きの深さ、それらを関係させながら考え作家の心を読み取ってゆく興味深さ、いつしか、そうしている私自身をも遠方から見つめているような気分になった。

砂上楼閣のようにかすれてゆく世界、それを見つめている私自身の遠景。

無常で不可思議なビジョンがふと浮かんだ。

広いフロアをまる二階分つかった三部構成で、かなりのボリューム。
さらりと見流すことは出来ない内容だから、まともに味わうと軽く半日はかかる。

お休みの日に行かれるのが得策かと思いました。

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Next Performance 10/29-30

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