櫻井郁也ダンスブログ Dance and Art by Sakurai Ikuya/CROSS SECTION

◉新作ダンス公演2024年7/13〜14 ◉コンテンポラリーダンス、舞踏、オイリュトミー

ヴァーチャル天使とシンフォニー

2013-04-28 | アート・音楽・その他
ヴォーカロイドは人ではない。
当たり前のその事が、見事なオーケストラサウンドのなかで、かえって切ない抒情に結びついてゆくのが、とても新鮮だった。

ヴァーチャルアイドル初音ミクを起用して話題になった冨田勲さんの『イーハトーヴ交響曲』、その制作過程やインタビューを交えたドキュメントが放送されて興味深く観た。イーハトーヴ交響曲は、その名の通り宮澤賢治の世界をオーケストラと合唱に託した大作。

血の通った人間の大人や子どもの合唱のなかに、オーケストラと指揮者の対話するようなサウンドのなかに、初音ミクが忽然と歌い踊り始める。
「注文の多い料理店」の楽曲シークエンス。音の迷宮、そのさなか。
その情景は、単に情報から想像するのとは違って不可思議なリアリティが漂っている。

わたしは、はつねみく、かりそめの、ぼでぃー、
ぱそこん、からは、でられない、でられない、でられな~い・・・

ジンタのリズムで初音は歌い踊る。
ヘロリと薄く甘い声はまさにかりそめ。あちらも出てこれない、こちらも入れない、虚実皮膜の「遠さ」。

幻想四次、宮澤賢治がそのように表したもうひとつの空間世界。天界に重なり死界とも重なり、されど何かちがう想像の彼方。想像は絶えず更新され結びつきあい膨らみ拡がり続けるディスタンスでもある。

剥がされた雲母の一枚が妖しく光るような踊り、人間には無い質感だ。
未来のイブ。アンドロイドは電気羊の夢を見るか。さまざまな人造天使の記憶がまたひとつ更新される。
コケティッシュなボディになびく髪は平面図の人工波。妖気少し怖くもある。しかしツールとしての存在を宿命された天使のそこはかとない哀しみを漂わせて、初音はジンタを踊る。アニメに疎い僕でもなんだかわかるこの魅力を、なんと上手く扱えるものか。

しかし見事なのはこから。初音ミクの不可思議な響きと踊りを受けて、こんどは生身の人々が歌う。不思議の国が一転、現実の場所が強いリアリティで奏でられる。「雨ニモマケズ」全編のコーラス。抑制された歌声は呼吸の響きが生々しい。切々として荘厳。初音ミクの起用によって、人間の歌がクッキリと輪郭を現わにする。なぜ人は唄うのか。人々は踊らない。じっと立って声を噛みしめるように静かに歌い唄う。じっと立って天地を結ぶことが最大の踊りであると、沢山の人がしっかり立っている。あの震災がやはり重なる。そしてやがて、天国の巡礼の歌がオーケストラから溢れでる。パイプオルガンに、地球が映し出される。人は歌い続ける。

意表を突くアイデアから完成したのは実に正攻法の堂々たるシンフォニーだった。

80歳をこえた作曲家の直感に多くの才能が集まり大変な作業の末に完成したのだという。
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