櫻井郁也ダンスブログ Dance and Art by Sakurai Ikuya/CROSS SECTION

◉新作ダンス公演2024年7/13〜14 ◉コンテンポラリーダンス、舞踏、オイリュトミー

蔡國強の「狼」

2015-09-02 | アート・音楽・その他
蔡國強(Cai Guo-Qiang )さん。素敵な美術家です。

横浜美術館の「帰去来」展は、強烈でした。→トレーラー

エントランスに広がる巨大な火薬画が、いきなり凄い。
やってくれたなこれは!
そこから始まる一連の展示は見事というほか無かったです。
ファンの一人として、この人は、ここまで来たんだ。という感激もあります。
そして、敬意湧く一つの作品に出会えました。
近年の代表作という『壁撞き(かべつき)』です。

99頭の狼たちがガラスの壁に向かって跳躍するインスタレーション。
狼たちは跳ね返されて墜落し、また立ち上がって跳躍への助走を始める。
ジャンプ、ジャンプ、ジャンプ!
静止しているはずのオブジェの群れは、動いているように生き生きとしていて、物語を生ましめます。
一頭一頭が、怖く、たくましく、凛々としている。
吠えよ。噛みつけ。
・・・なんと可愛い。

狼たちが向き合うガラスの壁の高さはベルリンの壁と同じ。
狼の数99はタオイズムにおいて永遠の循環を象徴する数。
とのこと。

激突せよ、永遠。

しかし、そのような能書きを知らずとも、その量感そして生き物の匂いに圧倒されます。
沢山の狼は剥製かと思えるほど生々しいのですが、それは針金と藁と羊毛でこしらえたのだと聞いてまたびっくり。
う、上手いな。と思わず唸る。
凄い仕事。

蔡氏はその多くの作品で火薬を使用し、その破壊力を創造の力に転じてみせます。
巨大なカンバスの上で火薬が爆発し、燃え上がる炎が絶妙のタイミングで消され、水の力で鎮められるとき、ため息が出るような美しさが一枚の絵として出現するのです。
しかし上述の作品では火薬は採用されていない。
丹念にリアルに作られた狼の群れが、火薬に値する力を内的に宿している。まさに美術。
そのエネルギーに酔いながら、
狼の肉体は人間のそれに相似するのではないか、と。
思わず思う。

人間は弱いところもあるが、生物全体のなかでは矢張り強者だと思うのです。
私たちは、火を起こす力と火を消す力の両方を持つ存在です。
破壊者でありながら創造者であること。
傷つける者でありながら癒す者でもあり得ること。
そのような、私たち自身の姿を、
蔡氏の狼は連想させてくれるように思えて仕方ありません。

ガラスの壁に向かってゆく狼たちは、しなやかです。
美しく跳躍し、柔らかに激突し、しなやかに身をひるがえして再び土を踏む。
そしてまた挑む。

狼たちは、その一頭一頭が個性的な表情に溢れています。
生きること、挑戦すること。
生きること、個性的であること。
生きること、何かを担っていること。

このインスタレーションに胸をつかまれました。

長崎での公演を終え、11月の東京公演の準備を再開した今、
行為者表現者として、歩き続ける人の一人として、示唆を受けます。

背を押されました。

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