冬の到来のなか、久しぶりに見たホックニーを思い出す。
11月、会期末に駆け込んだらとんでもなく混んでたけど、近年のなかでも特別に心震えた展示だった。
絵が微笑んでいる。まず、そう思った。《No.118、2020年3月16日「春の到来 ノルマンディー 2020年」より》が目に飛び込んできたのだった。コロナ禍が始まったあの冬に、ホックニーは自身が暮らす場所で描き上げたこの花の絵をオンライン上に投稿し、「春が来ることを忘れないで」というメッセージを添えたのだという。
MOTで開催され大変な話題となった『デイヴィッド・ホックニー展』はまさに最大規模だったがコロナ禍で無期限延期になっていたものが実現したものだった。
絵を見ることで、あんな風に喜びを感じたのは久々の経験だったし、芸術の力はいつか世界を回復させるに違いないという、ある種の予感と熱感覚が来た。
そして、画から、写真から、映像から、空間から、それらの経過を記録したビデオから、そしてそれらすべてが織りなす雰囲気とか気分から、「ひととなり」とでも言うほかないものを深く深く感じた。あれは特別な経験で、芸術はやはり「ひと」そのアラワレなのだと圧感した。rejoiceという言葉について大江健三郎の小説で経験したときの思い出もどこか重なった。
たくさんの苦しみ悲しみがいつしか静かな喜びを呼び込み、讃え寿ぎ愛でる力に転換されてゆく。毎日いろいろある。波風がたち、おだやかになり、夜が訪れて、いつしか季節が変わってゆく。そのような日常に対して、僕はどれくらいのことやものを大切にしてこれただろうか。そしてこれから訪れる瞬間瞬間を生き尽くすことができるだろうか。
淡く柔らかいのだけれど同時に深く切実な感情が、たかまっていった。げいじゅつが無かったら、たぶん人生はもっと暗い、と直感した。忘れられない時をもらった。ホックニーの絵に力があるのは、インタビューで語っているように、なすべき事を全身全霊でやっているからだろうと思う。ひとが好きなことを見つけ、信じ、力を注いでゆくことの大切さを改めて教わった。
ホックニーは83歳。「ありのままのあなたでいなさい」それが日本の若者への唯一のメッセージだという。
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