かなり前になりますが、ロバート・ウィルソン演出の『メサイア(モーツァルト編曲版)』を映像で見た、その印象が、なかなか消えません。
ウィルソン独特の美術とドラマ構築によって、ヘンデルの荘重な宗教音楽が全く新しい次元を獲得し、一見すると非日常的な様式美さえ漂わせるのに、いつしか人間的な喜怒哀楽に落とし込まれ、リアルな出来事のように迫ってくる、それは魔術的な感じなのでした。そして、モーツァルトの編曲により、楽曲がきらきらとした光を帯びているのが、とてもよくわかりました。
演劇やダンスの挿入、重々しい存在感が一種のオペラのように流動し、人物の内面性がくっきりと感じられるように演出されている、その鮮やかさに目が覚めました。
演出という作業によって、この音楽から、神秘的なものが軽やかさとリズムに還元されるのは、実に爽快でした。
聖書、象徴、音楽、身体。それらが独特のスピード感で解体されては消えてゆく。歌手、ダンサー、コーラス、オーケストラ、それらすべてが精密で正確で、舞台という構造物とパフォーマンスという解体行為を共存させ、音そのものの生命をあらわにしてゆく。
いかにも荘厳な聖書劇の音楽なのに、ウィルソンの演出によって、美しく楽しげで、チャーミングなものが、次々に溢れ出てくるのです。
僕は録画で見ただけなのだから、本当のすべてが見えてるはずがありませんから、ナマの本番は、もっともっと、いろんなものに溢れているに違いない、僕は想像しているだけなのだ、そんな思いもありました。
ロバート・ウィルソンが演出する舞台をナマで観たのは『ヴォイツェック』が最後なのだけれど、そのときの驚異的な体験は脳みそに雷を注射されたみたいでした。
ウィルソンの舞台特有の造形感覚、人工的な時空、陶酔、グロテスクなまでの冷却感、、、。
それらが、人間の人間たる匂いをまざまざと感じさせるのだから、すごいことです。
新しいメサイア、ほんとうは劇場に行って感じたかったです。
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平日昼間のフリークラス(火・14時)が加わりました。