櫻井郁也ダンスブログ Dance and Art by Sakurai Ikuya/CROSS SECTION

◉新作ダンス公演2024年7/13〜14 ◉コンテンポラリーダンス、舞踏、オイリュトミー

舞の場所あるいは交感の場所へ

2010-12-05 | 公演写真&記録(国内) dance works in JP(photo etc)
ソロ公演(12/10)も直前になってきましたので、リハーサルの合間をぬって上演場所の「planB」を訪ねました。
今回の『器官なき身体~phase1』ではサウンド/ライティングも僕が手がけることもあり、訪ねた理由はテクニカルチェックの仕事、ではあるものの、それ以上に何もない空間ともう一度出会い直してから最終リハーサルや仕上げ作業へと進みたかったというのも心にはあったのでした。
ああ、ここで踊るんだ、何もかもさらけ出して舞い切るんだ、そんな気持ちがズンと肚に入ってきた。

最初に魅力を感じて以来、何年もお世話になっている劇場なのだけど、劇場というのは不思議な空間です、慣れるということがありません。
「planB」は、新宿にほど近い中野富士見町/富士高校の向かい側の小劇場/ライブスペース。
田中泯さんのホームグラウンドとしてご存知の方も多いと思いますが、この場所、泯さんはもちろんのこと、さかのぼれば、
デレク・ベイリー、マルセ太郎、土方巽など、おそるべき人々が公演を開いてきた歴史ある場所。
それだけに、独特の気配がたちこめている。劇場というのはただの建物ではありませんね、そこで展開された行為の空気を吸って、場所そのものにある種のオーラが宿っている。だから、そこに立つには覚悟が要ります。

planBの、床。すごい床です。さまざまなダンサーやパフォーマーが命がけで踏んできたこの床には、なんだか怖ろしいほどの表情が黒く染み込む。魂が息づく床。ハンパを許さぬ存在感を醸し出す床木に足を触れる緊張は凄い。三方囲む壁もしかり。危機感さえある。でも、試されるばかりではない、ここからもう一歩踏み出せる、そんな温度があるのが、ここ。

例えば、冷たい水に身を横たえ、
例えば、太陽に焼けたアスファルトに素足で歩みを数え、
例えば、書物の文字を指先でたどり続け、
例えば、一つの火が燃えつき消え去るまで眼を閉じ、
例えば、一粒の石片を感情もろとも踏みしだき、
例えば、黙々たる暮らしの感情をこらえ、
例えば、我の手のひらをみつめ、
例えば、例えば、例えば、例えば・・・。
そんな積み重ねが踊りの背中に積もっているのでしょうけれど、それら全て投げ出す場所というのが舞い場。
この場所に、という気持ちがやはりあるのです。

積み重ねてきたものが、場所の息づきと出会い、そこに集う人の息と出会い、風となり波となってうねり。
その呼び交わすエネルギーとひとつになれるか。

命の軌跡をさかのぼってゆきたい。さかのぼり、命生まれる以前の、不可視の場所にまで思いを馳せたい。なにも知らない、なにも始まっていない、始まるかどうかさえ、誰も知らない。そんな、真空的なる状態へ、肉体をさかのぼらせてみたいという欲情。しかし、まずは、いまを生き合うもの同士の喜び悲しみを、あらためて感じ合いたい。いくつもの欲情や祈りが矛盾も含め、カオスを成し、ただ動き始める衝動をこらえているイマ。幕が開くとき、何かが始まるはず。踊りは、現場ですから。

身を投げ出す。
捨てるだけ捨てよう、ただただ、カラダを…、という思いが、ある。
公演、というものが近づくたび、十字架がふとよぎる。

1回のステージにするか、複数回にするか、悩んだ。結論は1回。
作品としての骨組みや運びはある。しかし、それが踊りそのものではなく、踊りは現場で初めて生まれ、そして消える。
今回は固めたものを見せようと思わないのだ。けっこう長く稽古してきたが、それは何かを固定するためではなく、動き出すためのもの。ことば、音、イメージ、さまざま経由した肉体。その肉体が、観客の方々の気と出あった瞬間に何が生まれるか、そこをこそ舞い込んでゆきたい。現場で感じるものを最大に活かしてみたい。
二度ないもの、でありたい。

観客席。踊りがイマジネーションへと着地する場所、それが僕にとっての観客席だ。
よくステージが聖域だと云う人がいるけれど、僕にとっては、むしろ観客席のほうが聖域に思える。
いいえ、その席に座った、ひとりひとりの心が、ひとりひとりの聖域だと思う。
客席には宇宙がひろがる。
踊りながら、いつもそう思う。
宇宙は多様だ。いや、多様さを宇宙と呼ぶのかもしれない。
今回も、ひとり踊り、だ。だけど・・・、
「ソロ」というが、それは形式の名前に過ぎず、実際はそこにいる人ひとりひとりの息をききながら、デュエットが展開しているのだと思う。
いっしょに・・・。
ひとりひとり、人ひとりひとりに無言の声がある、それを聴きながら、その無言の声と踊りたい。

この一年近く、いろいろやってきましたが、いま、ただただ、そうであります。
心の奥に、どんな声がまどろんでいるのか。
その一つ一つに耳すましながら、未完のデュエットへと舞い込んでゆきたい。
「器官なき身体」
すなわち、すきとおってゆくことへ、思い馳せながら、
とても、そう思うのであります。

公演サイト



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