悪人、そして報い
1
彼は自分を悪人とおもっているか
罪を重ねつづける悪い奴だと思っているか
それとも彼は
自分を善人とおもっているか
正義を行いつづける善い人間だと思っているか
おお それとも彼は
ちいさな過ちを犯すこともあるが
自分は真人間だと そう信じているのか
こどもから父親を奪い 住まいを破壊し
そのこどもの命さえもむさぼる彼は
―わざわいだ
と神はいわれる
血で町を建て、不正で都を築き上げる者*1
かれは
2
どのひとが
ひとを裁くや
神と化し
虐殺の映像を見るとき、はげしい憤りが湧く。思わず拳を固め、「この悪党!」と叫びたくなる。
だが、そこまで! という声が同時に聞こえる。「それ以上は思うな、願うな、言うな、手を出すな。『悪党』を裁くのはおまえではない」という声が。
ひとは、神に代わって人を裁くことはできない。
3
その獣のような眼は力だ
いくじなしから先に戦場へ送る
その薄い唇は正義だ
積み木で己の法を築き上げる
その肩を左右にゆすぶって歩く時
彼の心臓は民への支配欲でふくれあがる
―見よ。彼の心はうぬぼれていて、
まっすぐでない*2
だが 神を頼りとする者 おまえ
神のことば それを信じようと仰ぐ者よ
彼をののしる言葉で自分の口に毒を盛るな
彼の寝床を真っ赤に染める刃(やいば) それをまちがっても望むな
―あなたは悪しき者の頭を打ち砕いて首までにし、
彼の家の基をあらわにされます*3
だから祈れ 彼の眼も唇も陽にさらされる朝の訪れを
だから祈れ 彼の心臓が罪に泣き伏す真昼の訪れを
*1 旧約聖書「ハバクク書」2章12節
*2 旧約聖書「ハバクク書」2章4節
*3 旧約聖書「ハバクク書」3章13節
●ご訪問ありがとうございます。
聖書には独裁者の記事が少なからず出てきます。暴虐と、その結末が。改心する独裁者もいます。滅ぼされる独裁者は少なくありません。
今回、原稿を書きながら、「人がひとを裁くことはできない。裁くのは神である」という思いをいっそう強くしました。
引用した「ハバクク書」は、暴虐を目の当たりにしたハバククという昔の預言者が、「主よ。私が助けを求めて叫んでいますのに、あなたはいつまで、聞いてくださらないのですか。私が、『暴虐』とあなたに叫んでいますのに、あなたは救ってくださらないのですか」という言葉で始まっています。ウクライナやアフガニスタンやミャンマーやイランなどでの暴虐を、目にし耳に聞きながら私が叫んだことと重なります。
ハバクク書の結末には、神が独裁者を裁き給うと書かれています。人ではなく、神がなさるのです。人には、実現するまでの時間が短縮されることを真心をこめて祈る、そのことを求められました。
私も祈ります。