ラパロスコピストの夢

大阪梅田で子宮内膜症と闘うラパロスコピストのblog
子宮内膜症、子宮筋腫に対する腹腔鏡下手術はどこまで進歩するのか?

はじめにお読みください

健保連大阪中央病院に勤務するラパロスコピスト(腹腔鏡術者)のブログです。婦人科腹腔鏡下手術、子宮内膜症、慢性骨盤痛等の治療を専門としています。

このブログでは腹腔鏡下手術、子宮内膜症、子宮筋腫に関する基本的な事柄については解説していません。まず、下記のウェブサイトをご覧になることをお勧めします。
日本子宮内膜症協会
子宮筋腫・内膜症体験者の会 たんぽぽ

手術を希望される方はこちらをご覧ください。

医療相談、ご質問にはお答えしませんのでご了承ください。

おすすめの本はこちら?ブックス・ラパロスコピスト

子宮筋腫核出術への私のこだわり5 - 核出創:縫うか、縫わないか -

2025-02-19 | 腹腔鏡
今回は子宮筋腫核出術における 核出創の縫合について解説します。核出創とは、子宮筋腫を核出した後にできる創部のことです。


縫合の目的
縫合の基本的な目的は、組織の接合と止血です。出血がなければ縫合する必要はありませんし、縫わなくても組織が接合するのであれば縫わない方が良いかもしれません。

核出創の縫合
Myoma Pseudocapsule(MPC)を全く損傷せずに子宮筋腫を核出できたとしたら、核出した創部からの出血はほとんどありません。そのような場合は、電気メスなどで凝固止血するだけで十分です。MPCを完全に温存できた場合は、核出創が収縮して縫合する必要がないこともあります。しかし、基本的には死腔(縫合せずに残った空間)を形成すると、血腫になったり感染の原因になったりする可能性があるため、縫合しておく人のほうが多いと思います。ただし、今のところは、こうするべきであるというエビデンスはまだありません。


筋腫核出後:MPCは全く出血していない

子宮の深いところにある筋腫の核出創
深い筋層内筋腫を核出した場合は、残存した筋層が薄いため、子宮の内腔に糸が出ないように注意して縫合する必要があります。逆に、深いところにある筋腫こそ、MPCが十分に残るように核出することが重要です。深い子宮筋腫の核出は、それが大きいものであるほど、様々な配慮が必要になってきます。
  • MPCの温存
  • 正確な縫合
  • 術中出血のコントロール
  • 術後合併症の予防
など、注意すべき点は多岐にわたります。

大きく深い筋腫の核出創の縫合
大きく深い筋腫の核出創については、その出血点を必ず止血するように、そして創部が適切に閉鎖するよう縫合しておく必要があります。そうでなければ出血量が増えたり、術後血腫や仮性動脈瘤が発生する可能性が高くなります。そのような場合、内膜面に近いところにはあえて糸をかけないようにして、比較的浅いところは止血するようにしっかりと縫合しておくとよいと考えています。




まとめです。
  • 層をきちんと合わせること
  • 出血を止めておくこと
  • 子宮内膜に配慮しておくこと
ただし、ギチギチに強く結紮する必要はありません。子宮の血流を損なわない程度でOKだと思います。気合いを入れる必要はありませんが、核出部は奥のほうですから、運針は意外とむずかしいですよ😉


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

子宮筋腫核出術への私のこだわり4 - 子宮の縫合修復 -

2025-02-17 | 腹腔鏡
前回は、子宮筋腫核出術における子宮壁の切開について解説しました。今回は、子宮筋腫を核出した後の、子宮の縫合修復についてお話します。子宮筋腫の核出がうまくできていると、核出した後の子宮は下の図のようになります。



多発子宮筋腫症例の筋腫核出直後の状態です。子宮の漿膜面・切開創・MPC(Myoma Pseudocapsule)を温存した核出創が分かるでしょうか?実際に図示すると下の図のようになります。



このような状態であれば、子宮は非常に縫いやすい状態になっています。だから、このような状態になるように核出することが、良い手術と言えるでしょう。(大きな子宮筋腫や多発子宮筋腫では、ある程度長期間偽閉経療法を行いMPCが少し萎縮した状態になっているので、簡単ではありませんが…)

縫合の重要性
さて、子宮筋腫核出術で一番大事なのは、子宮の縫合修復です。核出の際、層がうまく合わなかったり、縫合に時間がかかったりすると、術中出血量が多くなってしまいます。また、修復の方法によっては、術後血腫や仮性動脈瘤ができてしまうこともあります。核出が難しい症例では、そのリスクも高くなります。最悪の場合、将来妊娠した時に子宮破裂が起こったという報告もあります。

強い子宮を作る
子宮筋腫核出術は、単に出血が止まれば良いという手術ではありません。筋腫を核出した子宮は下の図のようになっています。縫合された子宮は、いつかの妊娠のために、胎児が子宮内で育つために強く引き伸ばされても耐えるだけの強度を維持しなければなりません。
そのためには、縫合の際に、
  • 核出創は核出創に
  • 切開創は切開創に
  • 漿膜面は漿膜面に
きちんと合わせることが重要です。当たり前のことですが、これが一番注意すべきことです。

子宮筋腫核出術は、患者さんの将来の妊娠・出産に大きな影響を与える可能性のある手術です。だからこそ、私は子宮の縫合修復にこだわり、患者さんが安心して妊娠・出産を迎えられるよう、最善を尽くしています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

子宮筋腫核出術への私のこだわり3 - Myoma Pseudocapsule(MPC)を温存して筋腫だけを核出する -

2025-02-13 | 腹腔鏡
3つ目のこだわりは、Myoma Pseudocapsule(MPC)を傷つけずに筋腫だけを核出することです。

Myoma Pseudocapsule(MPC)とは?
Myoma Pseudocapsule(MPC)とは、子宮筋腫に圧迫された正常子宮筋層が変化して生じた結合組織のことです。MPCには血管や神経が含まれており、創傷治癒に重要な役割を果たしています。

MPCを温存する重要性
子宮筋腫核出術において、MPCをきちんと温存することは重要であると報告されています。MPCを温存することで、
  • 術中出血量の減少
  • 術後の治癒促進
  • 子宮の収縮性の維持
などの効果が期待できます。とくに、挙児希望のある方や不妊症の方は妊孕性の保持が大事ですので、このことは重要です。

西梅田ラパロセミナーでの学び
当院で開催した西梅田ラパロセミナー(オンライン、Zoom)で2020年に西村良平先生にMPCについての講演をしていただいて以降、当院でもMPCをできるだけ損傷しない手技を取り入れてきました。その結果、大きな筋腫の核出時の出血量が半分以下になってきました。これは、本当に驚くべきことです。

偽閉経療法との関係
大きな筋腫や多発子宮筋腫の核出では、骨盤内が相対的に狭くなるため、偽閉経療法(レルミナ)を術前に行うことがあります。しかし、偽閉経療法を行うと、MPCが萎縮して核出が難しくなることがあります。そこで、当院ではバイポーラシザーズ等を使って、MPCをできるだけ温存する術式を行なっています。

MPC温存のメリット
MPCをきれいに温存できると、出血が少なく、核出部位が収縮するため、縫合も容易になります。子宮の治癒も早くなります。



腕の見せどころ
MPCをいかに温存できるかは、術者の腕の見せどころでもあります。筋腫は固くて核出しやすいものだけではなく、変性して柔らかくなっていたり、分葉して正常子宮筋層が筋腫内に食い込んでいるものもあります。子宮筋腫核出術は、患者さんの将来の妊娠・出産に影響を与える可能性のある手術です。
ただ、単に筋腫を引っこ抜く手術ではないのです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

子宮筋腫核出術への私のこだわり2  - 子宮筋腫の中心に向かって切開 -

2025-02-11 | 腹腔鏡
子宮筋腫核出術では、子宮壁を切開して子宮筋腫を核出する必要があります。子宮は血流豊富な臓器であるため、切開時には出血が多くなる可能性があります。そこで、私は以下の点に注意して子宮壁の切開を行っています。

事前準備
まず、腹腔内所見を確認します。子宮筋腫がある位置、子宮の硬さ、大きさなど、術前のMRI画像でのイメージとの違いを把握してから手術を開始します。そして、子宮筋層に100倍希釈したバソプレシンを局注します。これは、血管を収縮させる薬剤で、出血を抑制する効果があります。

超音波凝固切開装置
切開には、超音波凝固切開装置(ハーモニックスカルペル)を使用します。電気メスでも切開は可能ですが、ハーモニックスカルペルの方が、子宮への熱損傷が少なく、出血も少ないため、より安全な手術操作を行うことができます。しかし、ハーモニックスカルペルは、適切に子宮に当てないと上手く切開することができません。

横切開
かつて私が開腹手術での子宮筋腫核出術を習ったころは、子宮を縦に切開するのが普通でした。しかし、子宮の血管走行を考えてみると、子宮動脈上行枝は,子宮体の側縁を上行しながら十数本の弓状動脈を子宮筋層に分枝しています。つまり左右の子宮動脈から横方向に血管が走行しているので、子宮切開時・核出時の出血は横切開のほうが少ないだろうと考えられています。現在では、縦切開・横切開どちらがよいのかは議論があるところではっきりとは確定していません。私は、術中出血量が少なくなること、そして、修復が確実に行える点から横切開での筋腫核出を行っています。(ちなみに師匠のDr.Kohも横切開)

まっすぐ切開する
子宮筋腫を最小限の切開で核出できるように、できるだけ傷がギザギザにならないように、まっすぐに切開することが重要です。しかし、これは意外と難しい技術です。なぜなら、私たちは3次元構造の丸い子宮を、平面に見えるモニターテレビで見ながら手術しているからです。そのため、空間認識能力はもちろんのこと、触覚や位置覚で子宮の形を感じ取りながら、切開を行う必要があります。まさに、腹腔鏡下手術は体で感じ取る手術だと言えるでしょう。

子宮筋腫の中心に向かって子宮壁を切開する
子宮壁を斜めに切り込んでしまうと、切開が長くなり、核出しにくくなるだけでなく、切開面が広くなるため出血が多くなり、縫合も難しく、時間がかかってしまいます。
子宮筋腫の中心に向かって切開することは、手術の効率と安全性を高める上で非常に重要な技術です。


子宮頸部筋腫の子宮筋層を横切開しているところ

当たり前のことを当たり前に
手術を見学に来た医師は、私が簡単そうにやっているので、自分もやってみたいと思うようです。しかし、実際には、子宮を切開するだけでも、これだけのこだわりポイントをクリアしないといけないことに気づいていないかもしれません。

当たり前のことを、当たり前にやる。

それが、実は一番難しいことなのです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

子宮筋腫核出術への私のこだわり1  - 傷を小さく、身体にやさしい手術 -

2025-02-10 | 腹腔鏡
子宮筋腫核出術は、子宮から子宮筋腫を取り除いて子宮を温存する手術です。大きく分けて以下の3つの方法があります。
  1. 腹式子宮筋腫核出術: お腹を10~15cm程度切開して手術を行う方法。
  2. 腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術(LAM): 腹腔鏡で手術操作を行い、4~5cm程度の小さな切開を追加して筋腫を取り出す方法。
  3. 腹腔鏡下子宮筋腫核出術(LM): お腹に小さな穴をいくつか開け、腹腔鏡を使ってすべての操作を行う方法。
この中で、私はほとんどの場合、LM(腹腔鏡下子宮筋腫核出術)を選択しています。

なぜLMを選ぶのか?
LMには、以下のようなメリットがあります。
  • 傷が小さい: お腹の傷が小さいため、術後の痛みが少なく、傷跡も目立ちにくい。
  • 身体にやさしい: 腸などへの負担が少なく、術後の癒着が少ない。
  • 出血が少ない: 適切な症例選択と技術により、出血量を抑えることができる。
もちろん、LMは技術的に難しい手術であり、熟練した医師の経験が必要です。

LAMは開腹手術?
個人的な考えですが、私はLAM(腹腔鏡補助下子宮筋腫核出術)は、基本的に開腹手術に近いと考えています。LAMは、腹腔鏡を使いますが、最終的にはお腹を4~5cm程度切開するため、傷の大きさや術後の癒着のリスクは、開腹手術とあまり変わらない可能性があります。

豊富な経験
私は、2000例以上のLMの経験があります。LMの症例数だけでも日本ではトップクラスでしょう。子宮筋腫核出術を行うのであれば、可能な限りLMで手術を行い、患者さんの負担を軽減したいと考えています。

トロッカーの配置
LMを行う際、私は下図のようにお腹に4つの小さな穴を開けて、そこから手術器具を挿入します。この配置は、子宮筋腫を横切開で行うために最適な配置だと考えています。
最後に
大きな子宮筋腫や多発子宮筋腫に対する子宮筋腫核出術は、患者さんにとって大きな負担となる手術です。だからこそ、私は傷を小さく、身体にやさしいLMという方法にこだわっています。適切に行えば、開腹手術やLAMよりも質の高い手術が可能です。これからも、患者さんのQOL(Quality of Life:生活の質)を向上させるために、最善の手術を追求していきます。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

─ Kohカップ、RUMI2システム ─ TLHへの私のこだわり12

2025-01-31 | 腹腔鏡
TLH(腹腔鏡下子宮全摘術)のこだわりのラストは、Kohカップ、RUMI2システムです。

Kohカップ、RUMI2システムとは?
Kohカップ、RUMI2システムは、子宮頸部に装着するカップ状の医療機器です。TLHにおいて、腟切開時の安全性と精度を向上させるために、私の師匠であるCharles H. Koh先生が開発したデバイスです。なのでKohカップと呼ばれてます。

Kohカップ、RUMI2システムの利点
Kohカップ、RUMI2システムを使用することで、以下のような利点があります。
  • 安全な腟切開: 子宮頸部にカップを装着することで、腟切開の際に尿管を損傷するリスクを低減することができます。
  • 尿管との距離の確保: 腟円蓋部を押し上げることで、尿管との距離を確保し、尿管損傷のリスクをさらに低減することができます。
  • 腟長の維持: 腟が長くなるため、仙骨子宮靭帯を切断する必要がなくなり、術後の腟長を維持することができます。
  • 骨盤サポートの維持: 仙骨子宮靭帯を切断しないことで、骨盤のサポートを維持し、術後の腟脱などのリスクを低減することができます。
子宮内膜症の場合
子宮内膜症に対するTLHの場合は、ダグラス窩の硬結を切除するために、仙骨子宮靭帯を切除する必要がある場合があります。その場合でも、Kohカップ、RUMI2システムを使用することで、腟切開時の安全性と精度を向上させることができます。

私は、多くのTLHにおいて、Kohカップ、RUMI2システムを使用してきました。これは、手術の安全性を向上させるだけではなく、患者さんのQOLを改善するデバイスでもあります。

TLHのこだわりについて、12回にわたって解説してきました。(本当はまだまだこだわりはあります)『こだわりという言葉は好きではない』と言いながら、こんなに書き込んでしまいましたが…😅

次回から子宮筋腫核出術・子宮内膜症の手術・卵巣嚢腫核出術・卵管摘出術などなど『こだわり』は続きます。これからも、より良い医療を提供できるよう、『こだわり』を続けないと、ですね😊
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

─ 超音波凝固切開装置 ─ TLHへの私のこだわり11

2025-01-30 | 腹腔鏡

TLH(腹腔鏡下子宮全摘術)を行う上で、欠かせない「相棒」がいます。それは、超音波凝固切開装置、Harmonic 1100です。

Harmonic 1100とは?

Harmonic 1100は、超音波の振動を利用して、組織の切開と凝固を同時に行うことができる医療機器です。従来の電気メスと比べて、周囲組織への熱損傷や出血が少ないため、より安全で精密な手術操作が可能となります。

TLHにおいて、Harmonic 1100を使用することで、以下のようなメリットがあります。

  • スムーズな切開と剥離: 超音波振動により、組織をスムーズに切開・剥離することができます。
  • 出血の抑制: 優れた凝固能力により、出血を最小限に抑えることができます。
  • 解剖学的構造の把握: 出血が少ないため、術野がクリアに保たれ、解剖学的構造を正確に把握することができます。

Harmonic 1100を使いこなすコツは、「自分が手術をするのではなく、道具に仕事をしてもらう」という意識を持つことです。私は、難易度の低い手術から高難度症例まで、あらゆるTLHにおいてHarmonic 1100を使用しています。特に、損傷したくない臓器や血管が近くにある場合でも、Harmonic 1100であれば、精密な切開を行うことができます。


私は、4000例以上のTLHでHarmonic 1100を使用してきました。ジョンソン・エンド・ジョンソン社がHarmonic Scapelを発売してから30年近くになりますが、初期のモデルからずっと使い続けています。(たぶん、日本では私だけ?)何度もバージョンアップを重ねて現在のモデルになっています。世界中の外科医が使用しつづけた智恵がこのデバイスには詰まっています。電気メスのように、患者さんの体に高熱を伝えないため、身体に優しい手術ができるのも魅力です。

Harmonic 1100は、TLHに欠かせない私の「相棒」です。これからも、Harmonic 1100とともに、患者さんに安全で安心な医療を提供できるよう努力を続けていきます。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

─ 腟断端縫合:しっかり剥離する ─ TLHへの私のこだわり10

2025-01-27 | 腹腔鏡
腟断端縫合のこだわり、最後のポイントは「膀胱をしっかりと剥離しておく」ということです。

どんなに運針の技術を磨いても、そもそも縫うところが十分に剥離できていなければ、適切な縫合はできません。そこで、子宮頸部・腟と膀胱の間を十分に剥離しておくことが重要になります。これは、TLHの序盤における重要な手術手技です。

子宮を摘出して、いざ縫合という段階になってから「あ、縫うところがない!」と慌てて剥離操作をするのは、容易ではありません。ですから、手術は逆算して考えながら進めていくことが重要なのです。



全てを「ちゃんと」やる
2層で縫合する、左手の使い方、Two-stage pass、膀胱の剥離など、腟断端縫合を完璧に行うためには、一つだけのポイントに注意すれば良いというわけではありません。
切開剥離と縫合結紮、すべてを「ちゃんと」やることで、術後腟壁離開のリスクを数千分の1にまで減らすことができます。

これで、一般的な腟壁離開のリスク1/100~1/300を、1/10以下にしてしまうのですから、すごいことだと思います。

術後のQOL
術後に安心して性交渉ができたり、腹圧をかけたりできることは、患者さんのQOLにとって非常に重要です。TLHによって無くなるものは、子宮と月経と痛みだけであってほしい。私は、そう願っています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

─ Two-stage pass:一度出す ─TLHへの私のこだわり9

2025-01-24 | 腹腔鏡
今回は、TLHにおける腟断端縫合の運針で、私が実践しているTwo-stage passというテクニックについて解説します。

Two-stage passとは?
縫合の際、組織が固かったり、左手がうまく寄せようとしても、一度で深く運針するのが難しい場合があります。このような場合に、無理に一度で運針しようとすると、浅い運針になってしまい、組織をしっかりと寄せることができず、腟断端離開のリスクが高まる可能性があります。そこで、私はTwo-stage passを採用しています。


これは、前壁と後壁を二度に分けて運針する方法です。簡単に言うと、一度針を出して持ち直すということです。

Two-stage passのメリット
一度で運針した方が早く済み、持ち直しもないので心理的にも楽です。一見すると早くてカッコよく見えるかもしれません。しかし、浅い運針になりそうな時には、Two-stage passを採用することで、深くしっかりと運針し、創部を正確にしっかりと寄せることができます。

もちろん、毎回Two-stage passを行う必要はありません。しっかり縫えるのであれば、One-stage passで問題ありません。かし、「ちょっと寄りにくいかな?」と思う時には、Two-stage passを採用することで、より安全で確実な縫合を行うことができます。



早さよりも確実性を
私は、早さよりも確実性を重視しています。「ちゃんとやっておきたい」という気持ちから、Two-stage passを採用しています。筋腫核出術でもこうすることで、しっかりと子宮筋層を縫合し、安心して妊娠出産を迎えていただくことができます。小さなことにも手を抜かないでおきたいですね。😊 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

─ 左手を使う─ TLHへの私のこだわり8

2025-01-23 | 腹腔鏡
今回は、TLHにおける腟断端縫合の運針について、左手の使い方に焦点を当てて解説します。

左手を効果的に使う
私は、腟壁の縫合を行う際、特に2層目の縫合において、左手を上手く使って、創部を幅広く縫合し、組織をしっかりと寄せるようにしています。しかし、ビデオクリニックなどを拝見すると、左手は腟壁などを掴んだままで、全く動かせず、右手だけで運針をしている人が多い印象です。手術において左手を効果的に使うのは、意外にも難しいことなのかもしれません。左手をそれなりに使えるようになるまでには、数年の修練が必要となるでしょう。中には、使えていないことに気が付かないと、ずっとそのままの人もいるかもしれません。

左手を使えないことのリスク
左手を使えないと、右手だけで運針することになります。すると、鉗子にはアクセス制限があるため、直線的な運針になりがちです。さらに、膀胱の剥離が不十分な場合には、かなり浅い運針になってしまいます。浅い運針では、組織をしっかりと寄せることができず、腟断端離開のリスクが高まる可能性があります。



また、腟壁を十分に縫合しようとして、粘膜面を大きく運針している例も見られます。そのような場合も、創部の状態によっては、離開のリスクが高まると考えられます。



左手を協調させて使う
左手を上手く使って、層を幅広く深く運針することで、組織をしっかりと寄せることができます。右手だけではなく、左手をも協調させて使うことを、Move the ground と言います。右手のデバイスだけではなく、地面(=手術対象部位)を動かして対応しているからです。Move the groundは、腟断端縫合だけでなく、様々な手術操作において重要なテクニックです。



このように運針するためには左手をかなり巧みに使わないといけないのですが、縫合がしっかり出来ていると安心して手術を終えることができます。😊 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする