ラパロスコピストの夢

大阪梅田で子宮内膜症と闘うラパロスコピストのblog
子宮内膜症、子宮筋腫に対する腹腔鏡下手術はどこまで進歩するのか?

はじめにお読みください

健保連大阪中央病院に勤務するラパロスコピスト(腹腔鏡術者)のブログです。婦人科腹腔鏡下手術、子宮内膜症、慢性骨盤痛等の治療を専門としています。

このブログでは腹腔鏡下手術、子宮内膜症、子宮筋腫に関する基本的な事柄については解説していません。まず、下記のウェブサイトをご覧になることをお勧めします。
日本子宮内膜症協会
子宮筋腫・内膜症体験者の会 たんぽぽ

手術を希望される方はこちらをご覧ください。

医療相談、ご質問にはお答えしませんのでご了承ください。

おすすめの本はこちら?ブックス・ラパロスコピスト

─ Kohカップ、RUMI2システム ─ TLHへの私のこだわり12

2025-01-31 | 腹腔鏡
TLH(腹腔鏡下子宮全摘術)のこだわりのラストは、Kohカップ、RUMI2システムです。

Kohカップ、RUMI2システムとは?
Kohカップ、RUMI2システムは、子宮頸部に装着するカップ状の医療機器です。TLHにおいて、腟切開時の安全性と精度を向上させるために、私の師匠であるCharles H. Koh先生が開発したデバイスです。なのでKohカップと呼ばれてます。

Kohカップ、RUMI2システムの利点
Kohカップ、RUMI2システムを使用することで、以下のような利点があります。
  • 安全な腟切開: 子宮頸部にカップを装着することで、腟切開の際に尿管を損傷するリスクを低減することができます。
  • 尿管との距離の確保: 腟円蓋部を押し上げることで、尿管との距離を確保し、尿管損傷のリスクをさらに低減することができます。
  • 腟長の維持: 腟が長くなるため、仙骨子宮靭帯を切断する必要がなくなり、術後の腟長を維持することができます。
  • 骨盤サポートの維持: 仙骨子宮靭帯を切断しないことで、骨盤のサポートを維持し、術後の腟脱などのリスクを低減することができます。
子宮内膜症の場合
子宮内膜症に対するTLHの場合は、ダグラス窩の硬結を切除するために、仙骨子宮靭帯を切除する必要がある場合があります。その場合でも、Kohカップ、RUMI2システムを使用することで、腟切開時の安全性と精度を向上させることができます。

私は、多くのTLHにおいて、Kohカップ、RUMI2システムを使用してきました。これは、手術の安全性を向上させるだけではなく、患者さんのQOLを改善するデバイスでもあります。

TLHのこだわりについて、12回にわたって解説してきました。(本当はまだまだこだわりはあります)『こだわりという言葉は好きではない』と言いながら、こんなに書き込んでしまいましたが…😅

次回から子宮筋腫核出術・子宮内膜症の手術・卵巣嚢腫核出術・卵管摘出術などなど『こだわり』は続きます。これからも、より良い医療を提供できるよう、『こだわり』を続けないと、ですね😊
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─ 超音波凝固切開装置 ─ TLHへの私のこだわり11

2025-01-30 | 腹腔鏡

TLH(腹腔鏡下子宮全摘術)を行う上で、欠かせない「相棒」がいます。それは、超音波凝固切開装置、Harmonic 1100です。

Harmonic 1100とは?

Harmonic 1100は、超音波の振動を利用して、組織の切開と凝固を同時に行うことができる医療機器です。従来の電気メスと比べて、周囲組織への熱損傷や出血が少ないため、より安全で精密な手術操作が可能となります。

TLHにおいて、Harmonic 1100を使用することで、以下のようなメリットがあります。

  • スムーズな切開と剥離: 超音波振動により、組織をスムーズに切開・剥離することができます。
  • 出血の抑制: 優れた凝固能力により、出血を最小限に抑えることができます。
  • 解剖学的構造の把握: 出血が少ないため、術野がクリアに保たれ、解剖学的構造を正確に把握することができます。

Harmonic 1100を使いこなすコツは、「自分が手術をするのではなく、道具に仕事をしてもらう」という意識を持つことです。私は、難易度の低い手術から高難度症例まで、あらゆるTLHにおいてHarmonic 1100を使用しています。特に、損傷したくない臓器や血管が近くにある場合でも、Harmonic 1100であれば、精密な切開を行うことができます。


私は、4000例以上のTLHでHarmonic 1100を使用してきました。ジョンソン・エンド・ジョンソン社がHarmonic Scapelを発売してから30年近くになりますが、初期のモデルからずっと使い続けています。(たぶん、日本では私だけ?)何度もバージョンアップを重ねて現在のモデルになっています。世界中の外科医が使用しつづけた智恵がこのデバイスには詰まっています。電気メスのように、患者さんの体に高熱を伝えないため、身体に優しい手術ができるのも魅力です。

Harmonic 1100は、TLHに欠かせない私の「相棒」です。これからも、Harmonic 1100とともに、患者さんに安全で安心な医療を提供できるよう努力を続けていきます。


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─ 腟断端縫合:しっかり剥離する ─ TLHへの私のこだわり10

2025-01-27 | 腹腔鏡
腟断端縫合のこだわり、最後のポイントは「膀胱をしっかりと剥離しておく」ということです。

どんなに運針の技術を磨いても、そもそも縫うところが十分に剥離できていなければ、適切な縫合はできません。そこで、子宮頸部・腟と膀胱の間を十分に剥離しておくことが重要になります。これは、TLHの序盤における重要な手術手技です。

子宮を摘出して、いざ縫合という段階になってから「あ、縫うところがない!」と慌てて剥離操作をするのは、容易ではありません。ですから、手術は逆算して考えながら進めていくことが重要なのです。



全てを「ちゃんと」やる
2層で縫合する、左手の使い方、Two-stage pass、膀胱の剥離など、腟断端縫合を完璧に行うためには、一つだけのポイントに注意すれば良いというわけではありません。
切開剥離と縫合結紮、すべてを「ちゃんと」やることで、術後腟壁離開のリスクを数千分の1にまで減らすことができます。

これで、一般的な腟壁離開のリスク1/100~1/300を、1/10以下にしてしまうのですから、すごいことだと思います。

術後のQOL
術後に安心して性交渉ができたり、腹圧をかけたりできることは、患者さんのQOLにとって非常に重要です。TLHによって無くなるものは、子宮と月経と痛みだけであってほしい。私は、そう願っています。

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手術室の不安と安心

2025-01-25 | 大阪日記
手術を受ける患者さんは、誰しも不安を抱えているものだと思います。

ある患者さんには、手術室に入室したとき、私が座っているのを見て安心したと言われました。「私が手術室に入った時、先生座ってたやろ、それ見て、すごく安心した。😮‍💨リラックスしてはるから、自信あるんやなと思った。」なるほど、患者さんはそんなふうに感じているんですね。(はい、自信あります😎)

また、別の患者さんは、手術室に大変緊張した様子で入室されました。横になっていただいた後、私と目があったのでニッコリ微笑んだところ、緊張の糸が切れたのか、泣き出してしまったことがありました。😭その時は、「何か悪いことをしてしまったかな」と少し反省しましたが、その方も安心してくれていたのかもしれません。(ごめんね🙏)

術前説明では、大丈夫だとは思っていても、稀に発生する合併症についても説明する義務があります。起こりうる合併症について詳しく説明することで、かえって患者さんを不安にさせてしまっている可能性もあります。🥺

患者さんの不安は、本当に様々です。手術前に、患者さんが不安を打ち明けるのは決して悪いことではありません。もちろん、私たち医療従事者が、すべての不安を取り除くことは難しいかもしれません。しかし、患者さんの言葉に耳を傾け、共感することで、少しでも不安を和らげることができればと思っています。

ちなみに、私は早めに手術室に入っているのが好きです。
座って、ただ、リラックスしています。
何をしているのかって?
私が結界を張っています👈。
だから、大丈夫なのです。👌
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─ Two-stage pass:一度出す ─TLHへの私のこだわり9

2025-01-24 | 腹腔鏡
今回は、TLHにおける腟断端縫合の運針で、私が実践しているTwo-stage passというテクニックについて解説します。

Two-stage passとは?
縫合の際、組織が固かったり、左手がうまく寄せようとしても、一度で深く運針するのが難しい場合があります。このような場合に、無理に一度で運針しようとすると、浅い運針になってしまい、組織をしっかりと寄せることができず、腟断端離開のリスクが高まる可能性があります。そこで、私はTwo-stage passを採用しています。


これは、前壁と後壁を二度に分けて運針する方法です。簡単に言うと、一度針を出して持ち直すということです。

Two-stage passのメリット
一度で運針した方が早く済み、持ち直しもないので心理的にも楽です。一見すると早くてカッコよく見えるかもしれません。しかし、浅い運針になりそうな時には、Two-stage passを採用することで、深くしっかりと運針し、創部を正確にしっかりと寄せることができます。

もちろん、毎回Two-stage passを行う必要はありません。しっかり縫えるのであれば、One-stage passで問題ありません。かし、「ちょっと寄りにくいかな?」と思う時には、Two-stage passを採用することで、より安全で確実な縫合を行うことができます。



早さよりも確実性を
私は、早さよりも確実性を重視しています。「ちゃんとやっておきたい」という気持ちから、Two-stage passを採用しています。筋腫核出術でもこうすることで、しっかりと子宮筋層を縫合し、安心して妊娠出産を迎えていただくことができます。小さなことにも手を抜かないでおきたいですね。😊 
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─ 左手を使う─ TLHへの私のこだわり8

2025-01-23 | 腹腔鏡
今回は、TLHにおける腟断端縫合の運針について、左手の使い方に焦点を当てて解説します。

左手を効果的に使う
私は、腟壁の縫合を行う際、特に2層目の縫合において、左手を上手く使って、創部を幅広く縫合し、組織をしっかりと寄せるようにしています。しかし、ビデオクリニックなどを拝見すると、左手は腟壁などを掴んだままで、全く動かせず、右手だけで運針をしている人が多い印象です。手術において左手を効果的に使うのは、意外にも難しいことなのかもしれません。左手をそれなりに使えるようになるまでには、数年の修練が必要となるでしょう。中には、使えていないことに気が付かないと、ずっとそのままの人もいるかもしれません。

左手を使えないことのリスク
左手を使えないと、右手だけで運針することになります。すると、鉗子にはアクセス制限があるため、直線的な運針になりがちです。さらに、膀胱の剥離が不十分な場合には、かなり浅い運針になってしまいます。浅い運針では、組織をしっかりと寄せることができず、腟断端離開のリスクが高まる可能性があります。



また、腟壁を十分に縫合しようとして、粘膜面を大きく運針している例も見られます。そのような場合も、創部の状態によっては、離開のリスクが高まると考えられます。



左手を協調させて使う
左手を上手く使って、層を幅広く深く運針することで、組織をしっかりと寄せることができます。右手だけではなく、左手をも協調させて使うことを、Move the ground と言います。右手のデバイスだけではなく、地面(=手術対象部位)を動かして対応しているからです。Move the groundは、腟断端縫合だけでなく、様々な手術操作において重要なテクニックです。



このように運針するためには左手をかなり巧みに使わないといけないのですが、縫合がしっかり出来ていると安心して手術を終えることができます。😊 
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─ 2層縫合できちんと合わせる ─ TLHへの私のこだわり7

2025-01-22 | 腹腔鏡

前回に引き続き、TLHにおける腟断端縫合の技術について、くわしく解説します。

2層縫合
腟断端を「きちんと合わせる」ということを真剣に考えた結果、私は2層縫合に行きつきました。1層目で腟粘膜を、2層目で腟壁~筋膜を合わせることで、いわゆるlayer to layer縫合をしています。実は、Dr.Kohの手術を見学しにMilwaukeeまで行った際に、彼も2層縫合を行っていたのには驚きました。(ちなみに、Dr.KohはAlbert-Lembert縫合を採用。)



左手を効果的に使う
2層縫合を行う際、私は左手を上手く使って、創部を幅広く縫合し、組織をしっかりと寄せるようにしています。手術で左手を有効に使うのは意外にも難しいのか、ビデオクリニックでは左手が全く動かず右手だけで手術をしている人が多いです。左手をそれなりに使えるようになるまでに数年はかかるようですね。

Two stage pass
腟断端の縫合時に、浅い運針しかできない場合があります。そのような場合には、無理に一度でかけようとせず、Two stage passを採用します。これは、前壁と後壁を二度に分けて運針する方法です。一度で運針した方が早く済み、一見するとカッコよく見えるかもしれません。しかし、浅い運針では、層がきれいに合わず、腟断端離開のリスクが高まる可能性があります。そこで、Two stage passを採用することで、深くしっかりと運針し、創部をしっかりと寄せることができるようにしています。

膀胱の剥離
腟前側をしっかりと縫合するためには、膀胱~膀胱脚の剥離が重要です。剥離が不十分だと、縫いしろがなくなり浅い運針しかできないので腟断端離開のリスクが高まります。

今回は、腟断端縫合の技術について、私のこだわりを概観しました。次回以降、これらのテクニックについて、さらに詳しく解説していきます。
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創を合わせる ーTLHへの私のこだわり6ー

2025-01-21 | 腹腔鏡
前回は、TLHにおける腟断端縫合の重要性についてお話しました。今回は、腟断端がきれいに治癒するための私の推奨していることを解説していきます。

腟断端縫合の3つのポイント
腟断端が十分な強度をもって治癒するためには、以下の3つのポイントが重要です。
  1. 腟粘膜と腟粘膜をきちんと合わせる
  2. 腟筋膜と腟筋膜をきちんと合わせる
  3. 創部と創部をきちんと合わせる


これらのポイントを満たしていれば、どのような縫合法を用いても問題ありません。しかし、実際にそのようにやってみようとすると意外と難しいです。

ですから、ビデオクリニックや技術認定ビデオを観察すると、これらのポイントがきちんと守られていないケースが多いのが現状です。特に、腟断端を一層で縫合する人に多いのですが、膣壁をうまく全層で縫えず、粘膜面を拾いすぎているために粘膜面が腹腔内に内反している場合があります。(他にも、う〜ん、という縫合はあります)



粘膜面は縫合しても創部ほどはしっかりと接着しにくいので、後で傷が開いてしまうリスクが高くなるかもしれません。また、粘膜面を大きく拾いすぎると、腟が短くなってしまう可能性もあります。縫合自体は一層でも二層でも構いませんが、創部をきちんと合わせることが、腟断端縫合の基本だと思っています。

私は、きれいに縫合された腟断端を見るのが好きです。それは、手術が無事終了した証とも言えるからです。

(注:腟断端縫合については、いろんな意見の方もいらっしゃいます。今回の内容は、あくまで私の推奨している方法ですが、自分のこだわりには自信があります。)
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腟断端縫合  ─TLHへの私のこだわり5ー

2025-01-20 | 腹腔鏡
子宮全摘術において、手術の終盤に行う腟断端縫合は非常に重要な手技です。なぜなら、この縫合が不十分だと、術後に腟壁が開いてしまう「腟断端離開」という合併症が起こる可能性があるからです。

従来の開腹手術や膣式手術では、腟断端離開の発生率は1/500~1/1000程度と低いものでした。しかし、腹腔鏡下手術では、腟断端離開の発生率が1/100~1/300程度と報告されている施設が多く、 開腹手術や腟式手術に比べて高い傾向にあります。これは、腹腔鏡下手術では、縫合などの鉗子操作が容易ではなく創部が適切に縫合されない場合があること、エネルギーデバイスの過度な使用による腟断端の熱損傷、腟切開や剥離の不適切などが原因として考えられます。

子宮全摘術は機能温存手術
子宮全摘術は、子宮を摘出する手術ですが、実は性機能を温存するという側面も持ち合わせています。腟断端離開の多くは、性行為や強い腹圧をかけた際に発生します。そのため、腟断端をしっかりと縫合することで、患者さんが安心して性行為を行ったり、お腹に力を入れたりできるようにすることが重要です。
当院では、4000例の子宮全摘術において、腟断端離開の症例はわずか1例のみでした。(なお、このケースでは、緊急で腹腔鏡下手術を施行し腟断端を再縫合することで無事治療することができました。)それも特殊なケースであったため、通常であれば膣断端離開を心配する必要はほとんどありません。これは、創部と創部をきちんと合わせるという、基本的なことを忠実に実行している成果だと考えています。



次回は、腟断端縫合の具体的な方法について、さらに詳しく解説していきます。

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手術室の番人🧙🏻‍♂️?

2025-01-18 | 大阪日記
私は婦人科部長として、日々手術室で奮闘しています。自分が執刀する手術も多いのですが、他の医師が執刀する手術も見守るようにしています。手術がスムーズに進むよう、全体を把握し、時にはアドバイスを送ったり、直接手を貸したりすることもあります。いわば、手術室の番人といったところでしょうか。 まるで魔法使い🧙のように、手術室で起こる様々なトラブルを解決しているのですよ🪄(盛りすぎやろ?)

しかし、私が外来で診察していない患者さんの場合、術後の回診で私が現れると、「誰?このおじさん?」といった表情をされることがあります。(すいません、私が部長のまつもとです👨🏻‍⚕️)


ちょっと寂しい気持ちになるのは事実ですが🥺、患者さんの安全と手術の成功のためには、陰ながらサポートするのも大切な役割です。無事に終わるよう見守りを続けています。『だれ?このおじさん?』ではなく、『ああ、このおっちゃんが大阪中央病院の守護神か🔱』と思っていただけたら、うれしいです。 😊 
 

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