コロナ禍は、いかにわれわれの社会が「クソどうでもいい」(bullshit)仕事に充ち溢れているかを、期せずして明らかにした。
セールス、広告、コンサルティング、銀行、証券業、観光、航空等々、これら以外の業態においても、どうでも良い書類作成や煩雑な手続き遂行など、いかに意味のない無駄な作業が多かったことか。
いわゆるエッセンシャル・ワークや農林漁業、製造業、建設業など、生活上のニーズを充たすもの以外の、「クソどうでもいい仕事」。こういう虚業に就く者ほど高賃金で、さらに、どうしても生活に欠かせないケアリングの仕事に就く者たちを冷遇し憎んでさえいる。
役に立つ労働を憎み、仕事に楽しみとやりがいを感じているのが許せず、「クソどうでもいい」仕事を押し付け、人びとがその無意味な労働に苦しんでいるのを見て、サディスティックな満足に浸るブルシットな社会。
フィリップ・ブロートンが『ハーバードビジネススクール』で描いたように、「クソどうでもいい」学位を取得し、「クソどうでもいい」詐欺のような仕事で大金を得る。黙っていれば、このての連中のために、「クソどうでもいい」仕事をやらされ、あるいは搾取され、人生が「クソどうでもいい」ものになりかねない。
グレーバーが昨年9月に急逝したのは、かえすがえすも残念であるが、残された著作からは、おおいに学ぶところがあるだろう。
やりがいを感じずに働いているのはなぜか。ムダで無意味な仕事が増えているのはなぜか。社会の役に立つ仕事ほどどうして低賃金なのか。これらの謎を解く鍵はすべて、ブルシット・ジョブにあった―。ひとのためにならない、なくなっても差し支えない仕事。その際限のない増殖が社会に深刻な精神的暴力を加えている。証言・データ・人類学的知見を駆使しながら、現代の労働のあり方を鋭く分析批判、「仕事」と「価値」の関係を根底から問いなおし、経済学者ケインズが1930年に予言した「週15時間労働」への道筋をつける。ブルシット・ジョブに巻き込まれてしまった私たちの現代社会を解きほぐす、『負債論』の著者による解放の書。
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