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本と音楽とねこと

男子劣化社会──ネットに繋がりっぱなしで繋がれない

フィリップ・ジンバルドー、ニキータ・クーロン(高月園子訳),2017,男子劣化社会──ネットに繋がりっぱなしで繋がれない,晶文社.(10.13.24)

ゲーム中毒、引きこもり、ニート…いまや記録的な数の男たちが、社会からはじかれている。学業では女子に敵わず、女性との付き合いや性関係でしくじり、正規の職に就くことができない。世界的な不況や、社会構造の変化、そしてネットの普及が、彼らをより窮地に追い込み、ゲームやネットポルノの中に縛り付けている。本書は、行動心理学、社会学、生理学の成果などを駆使しながら、今、若者たち、特に男性にどんな変化が起きているのかを検証。さらにその原因を解明していく。社会の変化によって、「男らしさ」や「男の役割」も変更を迫られている。先進国共通の男子の問題に、解決策はあるのか?

 フィリップ・ジンバルドーは、かの「スタンフォード監獄実験」の首謀者。

 本書では、オンラインのゲーム、ポルノに耽溺する米国、イギリスの若年男子の「劣化」とその対策を講じる。

 オンラインのゲームやポルノで享受される過剰な刺激は、学業、仕事、恋愛で必要とされる、ルーティンに耐える力を著しく減退させる。

 興奮依存症は、変化に乏しく、繰り返しが多く、計画や長期目標の設定を必要とし、楽しみの先延ばしを要求する実生活のすべての面に、微妙な悪影響と明らかな悪影響の両方を与えかねない。私たちが話を聞いた興奮依存症の兆候が見られる若い男性たちは、概して社会生活の場では大きな不安を覚え、目標を立ててそれを達成するモチベーションに欠け、絶望感を抱えていた。自殺の可能性をほのめかす者さえいた。また学校では、アナログ的で静的で完全に一方通行の伝統的な授業から完全にはみ出していた。学業はそもそも過去の学びの先々の問題への応用や、計画性や、楽しみの先送りや、遊びより勉強を優先することや、長期的な目標設定といったものの上に成り立っている。
 このようなミスマッチの中にあっては、彼らが落ちこぼれるのも無理ないのではないか?彼らはまた恋愛にも不適応者になっていたが、それは恋愛がゆっくり控え目に高まるものであり、双方向性や分かち合い、分かち合い、信頼信頼の構築を必要とし、少なくとも機が熟すまでは欲情を抑えなくてはならないものだからだ。
(pp.154-155)

 女性を、固有の人格と身体を備えた人間としてとらえるのではなく、「聖女」もしくは「娼婦」という鋳型でしか受け容れることができない男の病理について。

 セックスは巷にあふれ返っているのに、なぜそれについて話すことはこんなにも難しいのだろう?わざと下劣な物言いをすることが、受け入れられる唯一の方法なのだろうか?それなら低俗だとして、簡単にはねつけられるから?西洋化した世界では、多くの若い男性がこの不思議な乖離により、聖女娼婦コンプレックスを抱いている。「セックス抜きの愛」と「愛抜きのセックス」としても表現されるこの矛盾した欲求の持ち主は、自分の恋人に配偶者としての健やかな女性と、恋人としての娼婦のような女の両方を求める。現実の世界でやさしくてしかもセクシーな女性に出会うと、彼らは不安になり、しばしばその女性を拒絶する。彼らにとってセックスは、あくまで感情の入り込まないものでなくてはならないからだ。これは男女の双方にとって、恋愛の大きな障害になる。
(pp.160-161)

 女性が、男性の性的欲望の客体としてまなざされることの暴力性に男が気づくところからしか、セクシュアリティにおけるジェンダー平等は達成されない。

 相手を性の対象としてのみみなすことはレイプの必要条件だ。男性が女性をモノ扱いする理由の一つは、デートに誘うにしろ性的関係を求めるにしろ、アプローチするのはたいてい男性側だからだ。しかも、付き合い出したあとでさえ彼らはかなりの確率で拒絶されるのだが、もし相手をモノだと考えることができれば、それほど傷つかずにすむ。そのうち、彼らはイニシアティブを取らないあらゆる相手を侮蔑するようになる。だが、性的に対象化される側は、いったい自分の何に価値を見出されているのだろうかと自信喪失になりかねない。将来的には、恋愛やセックスにおいて主導権を握る女性が増えるにつれ、対象化や拒絶についての彼女たちの理解は深まり、同時に男性は女性たちが長い間不満だった被対象化や、拒絶の裏にある感情を理解し始めるだろう。他の立場逆転についても同じことが言える。稼ぎ頭の女性が増えることにより、男性が子どもと過ごす時間は長くなる。すべての人が真に解放されるためには、大きなスケールでの態度と行動の変化が必要だが、それには相手側はどんな感じなのかを実感させる、この種の変化が必要だただ相手に自分を投影するだけでなく。
(p.243)

 ジンバルドー等の立論は、ラディカルなフェミニストからは猛反発を受けかねない、保守的なものだ。

 男が劣化すれば、優位に立った女が、学業、仕事、恋愛等でイニシアティブをとればいい。
 そんな主張もあながち非現実的なものとは言えないだろう。

目次
1 症状
教育に幻滅
労働力からの脱落
度を越えた男らしさ―ソーシャル・インテンシティ・シンドローム(SIS) ほか
2 原因
船頭のいない家族―父親不在
問題だらけの学校
環境の変化 ほか
3 解決法
政府ができること
学校ができること
両親にできること ほか


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