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バザーリア講演録 自由こそ治療だ!

フランコ・バザーリア(大熊一夫・大内紀彦・鈴木鉄忠・梶原徹訳),2017,『バザーリア講演録 自由こそ治療だ!──イタリア精神保健ことはじめ』岩波書店.(1.25.2019)

 精神科病院の廃絶を取り決めたイタリア「精神保健改革法」(1978年)は、「バザーリア法」とも呼ばれているとおり、精神科医、フランコ・バザーリア等の尽力により成立した画期的な法令である。
 法令成立後ほどなくバザーリアは病死するが、本書は、法律成立から逝去までの短い間に、ブラジルで行われた貴重な講演の記録である。
 精神科病院を廃止し、患者の地域生活を「地域精神保健サービス」で支えるという当時としては大胆な試みは、他の西ヨーロッパ諸国における「脱施設化」にも大きな影響を与えた。
 バザーリアは、「精神病」というレイベリング、精神医学の権力乱用等への批判に加え、精神科病院の廃絶と貧困問題の根絶とが同時にはかられなければならない旨、再三にわたって、主張する。「精神病」者の隔離は「階級問題」の所産であるという指摘は斬新であり、いまだ「脱施設化」の端緒ですら開かれていない日本社会の精神科医で、このような社会的視点で病いを捉えるものがほぼ皆無であることを考えると、あらためて「医学の社会化」の必要を痛感する。
 ロシア、中国、ブラジル等とならんで、長期入院を余儀なくされている日本の精神病患者はつくづく不幸であると思う。「反精神医学」ではなく「精神医学」の適正な運用がはかられ、「脱施設化」への大きなかじとりがとられるのはいつのことになるのだろうか。

目次
第1部 治療と自由―サンパウロ講演
精神医療は自由の道具か抑圧の道具か
地域社会における精神医療チームの活動
精神医療施設についての批判的分析
公共医療における精神医療の統合
社会構造と健康と精神病
第2部 医療と権力―リオデジャネイロ講演
精神病院における権力と暴力
抑圧と精神病
科学と人間的欲求への犯罪視
国家権力と精神医療
第3部 もう一つの道―ベロオリゾンテ講演
ベロオリゾンテへの二つの旅
精神医療と民衆の参加
精神保健の取り組みにおける代替案
精神医療と政治―バルバセーナ精神病院
精神医療における「公」と「私」

世界に先駆けて精神病院(マニコミオ)を廃止し、社会に開かれた地域精神保健サービス体制を確立したイタリア。その大変革をリードしたのが、精神科医フランコ・バザーリアだった。最晩年に行われた「ブラジル講演」では、バザーリアのラディカルな実践と人間味あふれる思想が、聴衆の疑問や批判に応えながら活き活きと語られている。精神保健の未来を切り拓く「知」と「技術」が凝縮したバザーリアの遺言が、いま日本に伝わる!

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