大平一枝,2022,それでも食べて生きてゆく 東京の台所,毎日新聞出版.(6.4.24)
10年越しに見る台所(の写真)と住人の語りから浮かび上がる、市井の人々、それぞれの人生。
とりわけ、大きな喪失を経て再び自分の足で歩き出した人の話は胸の深いところに届く。何かを失ったり、誰かと別れたり。過ぎた日々になんとか折り合いをつけ、心を立て直し、今日もごはんを作るために台所に立つ。その切なくて清々しい人間の強さを、本書で掘り下げたいと思った。
再び歩き出した人の希望の食卓。去りゆく人との舌の記憶。人はそう簡単にきれいに忘れたり乗り越えたりなどできないものだ。
傷みや寂しさと付き合いながら、けれどもだからこそ日々の一瞬一瞬が愛おしいと知っている、それでも生きていく人の物語をまとめた。台所というひそやかな命を養う現場から。
(p.3)
一〇年の取材を振り返り、「何も失ったものがない人などいない」ということに気づいた。小さなものから大きなものまで。大切なものや大切な人、共に暮した日々、故郷、夢、家族、健康。どんなに幸せそうに見える人でも、何かを失いながら、どうにかこうにか自分を収め、繕いながら生きている。いくつになっても、どんな人にも大小の喪失がある。それが人生だとしたら、喪失と再出発の物語は、読者にも自分にも学びがあるのでは。そんなところから本書の制作は始まった。
(p.238)
パネル調査の報告書とも言えるし、人々のライフヒストリーの記録としても読める。
凡百の調査報告と一線を画すのは、人々のナラティブ(語り)とともに、台所の写真が雄弁に人それぞれの人生を物語っている点だ。
何も失っていない人などいない。台所から人生の愛おしさを描く感動ノンフィクション!22人の再生の物語。
目次
1
酒と金魚
「これ、カンドー?」 ほか
2
名建築は東京一不便な台所
本と恋と団地ごはん ほか
3
旅立つ前の最後の一杯
料理写真をつまみに酒を飲む男 ほか
4
自分の機嫌は自分でとる
離婚とコロナと餃子が変えた未来 ほか