「穏健なコミュニタリアン」たるマイケル・サンデルは、柔らかな筆致で市場原理主義を批判する。市場原理主義の鬼子、ゲイリー・ベッカーなど、宇沢弘文さんならボロクソにこきおろしているのだが。さすが、ハーバード大学の講義で一山あてただけのことはある。サンデルは、「世渡り上手なコミュニ多リアン」でもある。
本書でもっとも印象に残った噺は、企業が勝手に社員に生命保険をかけ、死亡保険金をせしめているというものだ。日本であれば、さすがに大騒ぎになるところだろう。
私たちは、あらゆるものがカネで取引される時代に生きている。民間会社が戦争を請け負い、臓器が売買され、公共施設の命名権がオークションにかけられる。
市場の論理に照らせば、こうした取引になんら問題はない。売り手と買い手が合意のうえで、双方がメリットを得ているからだ。
だが、やはり何かがおかしい。
貧しい人が搾取されるという「公正さ」の問題? それもある。しかし、もっと大事な議論が欠けているのではないだろうか?
あるものが「商品」に変わるとき、何か大事なものが失われることがある。これまで議論されてこなかった、その「何か」こそ、実は私たちがよりよい社会を築くうえで欠かせないものなのでは――?
私たちの生活と密接にかかわる、「市場主義」をめぐる問題。この現代最重要テーマに、国民的ベストセラー『これからの「正義」の話をしよう』のサンデル教授が鋭く切りこむ、待望の最新刊。
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