橘木俊詔,2015,貧困大国ニッポンの課題──格差、社会保障、教育,人文書院.(11.4.24)
日本はすでに貧困大国だ。しかし、消費増税による社会保障と教育改革で再生する!日本の若者と高齢者の半数は既に貧困状態にあり、アベノミクスも息切れ。猛スピードで転げ落ちる日本社会の現状を経済学者の眼で冷徹に見つめ、具体的な処方箋を提示する、タチバナキ経済学のエッセンス。教育が賃金に及ぼす効果や、ベーシック・インカムは誰が支持しているのかを実証的に分析した論文を収録。2016年、待ったなし。
貧困問題と雇用政策、社会保障、教育については、そこそこ勉強してきたので、さして新味はなし。
橘木さんは、デンマーク型の福祉国家を理想としているが、デンマークにしろ、スウェーデンにしろ、労働組合の組織率が高く、それを基盤とした社会民主主義の政党が高福祉高負担の福祉国家を成立させてきた背景があり、また、選挙の投票率が高く、政治家、官僚は特権階級ではなく、その権限と利益は、民意により著しく制限されている。
つまりは、ウィリアム・コーンハウザーの社会類型でいうと、エリートへの接近可能性が高く、エリートによる操縦可能性が低い「多元的社会」であって、日本、米国、英国のような、典型的な「大衆社会」とは異質である。
大衆の政治家や官僚への信頼がきわめて低いのであるから、一般論として「社会保障のための増税」に賛成しても、実際に増税となると猛反対する──これが日本の民意である。
したがって、消費税を北欧なみに引き上げて、それを社会保障と教育に充当するなんて、まず無理だ。
ここ35年ほどのあいだの税収の内訳の変化をみると、所得税と法人税が減った分を消費税が補うという現状にあり、これ以上赤字国債を増やさずに社会保障と教育への補助を充実するとすれば、所得税の累進部分と法人税を増やすほかない。
あと、手厚すぎる中小企業への補助金、助成金を削減しないことには、社会保障や教育への公的投資は難しいし、生産性が脆弱なゾンビ企業を延命させ、高収益の企業、産業への構造転換がなかなか進まないという現実もある。
デンマークやスウェーデンの高福祉が、高付加価値、高生産性、高収益を誇る企業、産業によって成り立っていることにも留意すべきであろう。
目次
「脱成長」から福祉国家の構築へ
第1部 貧困と格差
日本は貧困大国
若者の貧困問題
格差と雇用の問題を解決する政策
アベノミクスと労働改革の諸問題
第2部 福祉
社会保障と税
ベーシック・インカム
第3部 教育
親が貧しいと子どもの進学が不利になる
公的教育支出の増加と実務教育の充実を
エリート教育をどうすればよいか
学校教育が人々の賃金に与える効果の実証分析
経済成長だけが幸福の源泉ではない