「ケアの倫理」とは、強者総取り型の競争原理に対抗するものであるが、弱者への共感、配慮、介助といった価値を称揚するだけでは、家父長制社会における女性の不払い労働を正当化することになる。
「ケアの倫理」はそうした危うい側面はあるが、文学作品に描かれてきた、両性具有的なケアラーのモデルには、普遍的で、力強い文化的価値がある。
ヴァージニア・ウルフをはじめとして、家父長制文化に対抗しながら、「ケアの倫理」を貫いた人々の文化的営為には、深く共感する。
強さと弱さ、理性と共感、自立する自己と依存する自己…、二項対立ではなく、そのあいだに見出しうるもの。自己と他者の関係性としての“ケア”とは何か。ヴァージニア・ウルフ、ジョン・キーツ、トーマス・マン、オスカー・ワイルド、三島由紀夫、多和田葉子、温又柔、平野啓一郎などの作品をふまえ、“ケアすること”の意味を新たな文脈で探る画期的な論考。
目次
序章 文学における“ケア”
“ケア”の価値が看過されるわけ
ネガティヴ・ケイパビリティと共感力 ほか
1章 ヴァージニア・ウルフと“男らしさ”
病気になるということ
負の「男らしさ」を手放す ほか
2章 越境するケアと“クィア”な愛
ケアの倫理と民主主義
同性婚が認められない社会とオスカー・ワイルド ほか
3章 弱さの倫理と“他者性”
ケアの倫理が問い直す正義論
ロマン主義時代におけるケアの倫理 ほか
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