本書を読んで、とくに新しい発見があったわけではないが、あたまの整理をするにはとても有益だった。
たとえば、語りつくされた感もある、「専業主婦の誕生」過程について、国内の所得格差の縮小により、中流階層はもはや「家事使用人」を雇う余裕を失ったがゆえに、既婚女性が家事責任を一身に担うようになったのだと。一方で、グローバルな所得格差が存するゆえに、アメリカ合衆国では、新規の(ときには違法の)移民が、ベビーシッターなりナニーなりの、家事使用人として雇用されている。
育児、介護労働は、家事使用人の労働の延長線上にあり、政府による手厚い所得保障がなければ、たとえば日本でがそうであるように、安く買い叩かれてしまうことになる。
家事分担の公正さをめぐるジェンダー間の葛藤は、「共働き社会」の大きな課題であるが、育児、介護労働への公的支援がふじゅうぶんななかにあっては、なおのこと深刻となる。日本も含めた東アジア、東・南ヨーロッパにおける超少子化の問題も、こうした問題状況のなかで考察されるべきであろう。
現在の私たちは、「男性は仕事、女性は家庭」という近代以降に形作られた性別分業体制を脱し、「共働き社会」に移行しつつある。しかし、この共働き社会では、結婚しない(できない)人の増加、子どもを作る人の減少といった、「家族からの撤退」をも生じさせた。結婚と家族はこれからどうなっていくのか―。本書では、男性中心の家制度、近代化と家の衰退、ジェンダー家族―男女ペアの家族―の誕生など、「家」の成立過程と歩みを振り返りながら、経済、雇用、家事・育児、人口の高齢化、世帯所得格差といった現代の諸問題を社会学の視点で分析し、“結婚と家族のみらいのかたち”について考察する。
目次
第1章 家族はどこからきたか
家族についての話題三つ
母・子と、それを守る存在
「家」の成立
「家」からの離脱
第2章 家族はいまどこにいるか
男は仕事、女は家庭
「お見合い結婚」の不思議
「男性」からの離脱?
自由な親密性のための三つの課題
第3章 「家事分担」はもう古い?
「家事分担」問題
家事と格差
家事労働はこれからどうなるか
第4章 「男女平等家族」がもたらすもの
「平等な夫婦」は目標になりうるか?
家庭が(再び)仕事場に?
共働き社会がもたらす格差
家族による格差にどう対応するか
第5章 「家族」のみらいのかたち
家族と仕事のリスク・マネジメント
カップル関係は変わるのか?
「公平な親密性」は可能か?
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