かつて、「性の自己決定」を「男」が論じるという企画本が何冊か出たことがあって、読んではみたものの、当然というべきか、この人たちはどういう了見でこんなことがいえるのだろう、と強い違和感をもった。
違和感の正体は、単純なことだ。たとえば、「売春」を職業として認め、それを生業とする女性たちを労働法により保護すべき、とか、正論ぽく聞こえるかもしれないが、それは、ほんとうに「自己決定」で選んだ職業といえるのか、ということだ。
せめて、最低賃金が、全国どこでも、時給1,500円以上と定められ、生活保護の漏給率が1割以下を達成したとしたら、「自己決定」論も聞くべきところがあるかもしれない。(ただし、時給1,500円で法定労働時間分稼働したとしても、可処分所得は月々20万円を切る。)現実は、それとはほど遠い。そして、この手のルポルタージュで再三明らかにされてきたとおり、とくにシンママ世帯の「最後のセーフティーネット」となるのが「性風俗」なのであった。
一年で生涯賃金分稼げるのであればともかく、リスキーきわまりない性風俗を自らすすんで生業とする女性が、いったいどれくらいいるというのだろう。本書は、中村淳彦さんのルポのように、意図的にすべての女性に大きな不安を与えるような内容ではないが、このような現実があるということは知っておくべきだろう。
目次
第1章 地方都市の風俗店で生きるシングルマザー
第2章 生活と子育てを安定させるために
第3章 義実家という名の牢獄
第4章 たった一人の自宅出産
第5章 彼女たちが「飛ぶ」理由
第6章 「シングルマザー風俗嬢予備軍」への支援
第7章 風俗の「出口」を探せ
第8章 「子どもの貧困」と闘う地方都市
終章 「家族」と「働く」にかけられた呪いを解く
経済的困窮におかれたシングルマザーの中で、デリヘルなどの性風俗店で働く人たちが増えている。首都圏に比べて賃金も低い、働き口も少ない、行政の公的サービスも十分ではないという地方都市において、「性風俗シングルマザー」はどのように仕事と育児をこなし、貧困から脱出しようともがいているのか?地方都市で困難な状況に直面する彼女たちと社会福祉をつなげようと、性風俗店での無料法律相談を実施する著者が、現場の声を丹念に拾いつつ、単なるルポの枠を超えて、具体的な問題解決策まで提案する。
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