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本と音楽とねこと

【旧作】<帝国>【斜め読み】

アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート(水嶋一憲・酒井隆史・浜邦彦・吉田俊実訳),2003,<帝国>──グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性,以文社.(8.31.2021)

 かなり抽象度が高い内容で、「実に分かりやすい」とはいえないだろう。
 500ページをゆうに超える分量で、しかもこの難解さ。忍耐力を鍛えるのには良いかもしれない。

A・ネグリとM・ハートによる『Empire』の日本語版がようやく発売された。あまりの厚さに驚くかもしれないが、いざ読んでみると実に分かりやすいことにすぐ気づくだろう。
本書は12年前の湾岸戦争の衝撃から生まれた。それに次ぐユーゴスラビアでの戦争、世界新秩序、そしてグローバリゼーションとその直接の帰結である国内のさまざまな改革について、それぞれ個々の議論はありながらも、ではつまるところ世界はどうなっているのかということについてははっきりした議論はなかった。とりわけ現状に対して批判的に接しようとする者にとって、決定的な理論が出ないことに対して大いに不満だっただろう。
本書は、そういった不満を一掃させてくれる、すぐれて総合的な世界の見方を大胆に示した書物だ。著者たちは本来の彼らのスタイルである難解な文体を捨て、平明な語りに終始している。まず読みとるべきは、ポストコロニアル理論、カルチュラルスタディーズ、H・アーレント、マルクス、ドゥルーズ、スピノザ等々、今まで別々に語られてきた批判理論のほとんどすべてが検討され、個々の理論がお互いどう結びつくのかといった、われわれの疑問に彼らはみごとに答えている点だ。しかも単に図式を描くだけでなく、「内在平面」とかバイオ・ポリティックスなどのキーワードを駆使して、世界の変化がわれわれ個々人の内面といかに密接に関連しあうのかを示していることも、本書の類まれな特徴の1つだ。単なる教養の域を超えて、日常の葛藤から世界認識までを描いているのだ。
この書に対して、アメリカの位置づけをめぐって批判が世界から噴出した。また頻出する「マルチチュード」という言葉に対して、具体的に何を指すのかについても曖昧(あいまい)だという弱点はある。しかし、ともかく彼らは強力な図式を提示し、われわれを豊穣な論争の世界へ誘っている。現実が見えなくなったとぼやく前に、ぜひとも読まれるべき本だろう。
(池上善彦)

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