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本と音楽とねこと

おひとりさま vs.ひとりの哲学

山折哲雄・上野千鶴子,2018,おひとりさま vs.ひとりの哲学,朝日新聞出版.(5.4.24)

 どう死ぬかということはどう生きるかということだ。

 西行や種田山頭火に憧れて、「俺は野垂れ死にしたい」とうそぶくオヤジがいるが、そういう男にはきまって妻子がおり、ちゃっかり依存先なり逃げ道なりを用意したうえで、自分は世俗的な生への執着がない──実際は人一倍執着している──と格好つけているだけだ。

 婚姻というものが、「誰にも看取られずに孤独死すること」への恐怖から逃避する一手段となっていること、それは確かなのだろう。

上野 「妄想」と正直に言っていただければ理解できます。ここでも「性格の悪い社会学者」は、妄想よりリアルを見ちゃうんです。その妄想だって、とっくに賞味期限が来ているかもしれません。ところで「夫婦は二世」っていうことと「ひとり」っていうこととの関連はどうなるんですか?
山折 うっ、うーん、死という問題があるから、二世っていうのは。死ぬときはやっぱりひとりという通路を通っていくからね。
上野 死ぬのは別々のひとりでも、あの世でも妻が待っててくれたら、死後もひとりにならないじゃないですか(笑)。
 先ほど、妄想とずばりおっしゃったけど、そのとおり「夫婦は二世」は妄想の一種です。妄想がなければみんな生きていけないってところもあるでしょうが、わたしは結婚したいと思ったことがない人間なので、結婚する人の気持ちがよく理解できないんです。結婚式で、誓いの言葉を言うわけでしょ。「あなたと運命共同体になります、死が私たちを分かつまで」って。それどころか、死の後まで私たちは分かたれないというのが「夫婦は二世」ですよね。誰かと運命的な絆で結ばれたいとか、運命共同体になりたいという気持ちが理解できないのです。それはたぶん妄想だとご本人たちもおっしゃる。妄想なしで人は生きていけないという方もいらっしゃる。でも、わたしにはその妄想は要りません。欲しくないです。
山折 別の妄想を持っているからじゃない。
(pp.102-103)

 そうは言っても上野さん、凡人は、「いつまでも親密な女(男)がいるわけでもないだろう」し、「ひとりは寂しくてイヤだ」から、関係の永続をある程度保障する婚姻にすがるのでしょうよ。
 あなたのような強い人ばかりじゃないのだよ。

『週刊文春』「上野千鶴子反論の衝撃中身」、何が「衝撃」だったのか背景を探った

 上野さんが色川大吉さんと入籍していたことを『週刊文春』がスクープした際、上野さんは、「世の中には、他人のプライバシーを嗅ぎまわってそれをネタにする卑しい人々がいる。『文春砲』なるものもそのひとつだ」と言い放った。
 上野さんが入籍したのは、亡くなる間際の色川さんの資産整理等をするうえで、「事実婚」では支障があったからだ。
 その事実と、上野さんが一夫一婦婚を否定し続けたこととは矛盾しない。

 結局は、妻や子どもという依存先なり逃げ道なりを用意したうえでの「ひとり」と、「おひとりさま」とでは、覚悟がちがうということなのだろう。

上野 わたしはどちらかというと、リアリティから語っていますが、山折さんはどちらかっていうと、スピリチュアリティから語っている。思想と実践のレベルで言うと、思想としての「ひとり」は、孤立を意味しない。「ひとり」は肉食妻帯、再生産も全然オッケー。でも、実践としての「おひとりさま」は在宅ひとり死と結びつきます。
──要するに、思想としての「ひとり」は気持ちとおこないが違っているということですね。
上野 そのとおりです。「ひとり」のレベルが違うんで、ひとりであることと、家族のなかでの看取りはまったく矛盾しないでいられるんです。だからわたしはそれを見ると、便利だねと思うんです。
山折 まあそう言われてもしかたないなあ。
上野 わたしの「おひとりさま」っていうのは、たんに思想だけではなく、実践のなかにありますから。現実にわたしには、絶対に「この人は自分を見捨てないだろう」という子や孫もいないわけでしょ。そうすると何らかの手立てを考えるしかないわけですよ。それを考えざるをえない人と、考えなくてもいい人の違いっていうのがあります。
──実践ってそういう意味か。そういう境遇にあるかないかっていうね。
上野 それはとても大事なことです。
──「個」の境遇が違うわけですね。
(pp.178-179)

 しかし、上野さんには、人並み以上のおカネがあり、友人がいる。
 そうした資源をもたない凡人「おひとりさま」は、どうしろというのだろうか。
 「おひとりさま」として生き、死んでいける資源を自助努力で確保しろというのではネオリベの罠にはまるだけであるし、やはり地域社会での相互扶助のしくみを創造、強化していくしかないのだろうな。

「おひとりさま」シリーズの社会学者・上野千鶴子さんと『ひとりの哲学』(新潮選書)が評判の宗教学者・山折哲雄さんが、老いの果ての死をじっくり語り合う。さまざまな最期の迎え方の中から何を、どう選ぶのか。男の哲学的理想と女の社会学的現実がぶつかりあう。

日本人の死に方をめぐるガチンコ対談。逝き方の極意。

目次
第1ラウンド おっさんの「野垂れ死にの思想」
第2ラウンド 思想としての「ひとり」
第3ラウンド 「いい気なもんだね」
第4ラウンド ブルータス、お前もか
第5ラウンド 「死にゆく人はさみしいもんや」
最終ラウンド 「個」と「ひとり」


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