周司あきら・高井ゆと里,2023,トランスジェンダー入門,集英社.(2.27.24)
本書は、とても明快で、わかりやすい、まさに、「トランスジェンダー入門」としてふさわしい内容の一冊だ。
セックス×ジェンダー×セクシュアリティのスペクトラムには、100人いれば100とおり、豊穣なダイバーシティが煌めいている。
ジュディス・バトラーのように、セックスもまた構築されたものだ、という見解には、賛同できないけどね。
プロゲストロンやテストステロンのはたらきを、舐めちゃいけない。
人間はホルモンの奴隷だとは思わないけど、人間の意思ではどうにもならない生体メカニズムがあって、だけどそれは人間の感情、情緒、理性等によって、じゅうぶんコントロールできるものであって、そのコントロールできたことが自尊感情に結びつくような、そんな性文化が必要だと思うのだけどね。
生得的に割り振られた性別と、性自認、性同一性が食い違っている場合、前者は変えることはできても、後者は変えられない──この性科学の知見に基づき、性別違和、性別不合を感じている、子どもも含めた人々が、差別、排除されずに、ふつーに、友だちをつくり、恋をして(これはしなくてもいいのだけど)、学び、遊び、仕事をしていける環境づくり、それが大事であることは言うまでもないのだけど、そのために具体的にどういう手立てや配慮が必要なのか、本書はそのことをシンプルに教えてくれている。
ホモソーシャルなつながりで既得権益を占有する男たちが、ホモフォビア、ミソジニー(性搾取の根源にあるのも実はこれ)ともども、トランスフォビアに陥ることがないような手立ては、、、前提としてある、当の、男のホモソーシャルなつながりによる既得権益の占有、すなわち家父長制を解体させていくしかない。
まだ遠くにある目標と言わざるをえないのだけど、わたしたちは、最終的には、排他的な一夫一婦制、婚姻制度を解体することを、めざすべきなんだろうな。
荻上チキさんが、『もう一人、誰かを好きになったとき──ポリアモリーのリアル』で見事に描き出したような、心身ともに解放された自由な人間によるポリアモラスな関係性、、、それと非血縁家族による子どもの共同養育、これらが実現できたら、トランス男性もトランス女性も、ずっと生きづらくなくなるにちがいない。
トランスジェンダーとはどのような人たちなのか。性別を変えるには何をしなければならないのか。トランスの人たちはどのような差別に苦しめられているのか。そして、この社会には何が求められているのか。これまで「LGBT」と一括りにされることが多かった「T=トランスジェンダー」について、さまざまなデータを用いて現状を明らかにすると共に、医療や法律をはじめその全体像をつかむことのできる、本邦初の入門書となる。トランスジェンダーについて知りたい当事者およびその力になりたい人が、最初に手にしたい一冊。
目次
第1章 トランスジェンダーとは?
第2章 性別移行
第3章 差別
第4章 医療と健康
第5章 法律
第6章 フェミニズムと男性学