とてもおもしろかった。
といっても、読んでみて、なにか新しい知見が得られたわけではない。ほとんど、既知のことばかりであった。
筆者がすごいなと思うのは、わたしだったら忘却のまぎわにある知見を、次から次に引き出してくる、その博覧強記ぶりである。
本書は、さながら、おもしろくてためになる、社会学のネタ、その集大成である。
筆者のあたまのなかにすべてのネタが記憶されているとすれば、とんでもない才能というほかない。それとも、きちんと、ノートでもとられているのだろうか。機会があれば、お尋ねしたいものである。
目次
はじめに
第1章「怠ける権利」とは何か
1 ポール・ラファルグという生き方
「現代のオブローモフ」──一九七〇年代の若者たち/「怠ける権利」との出会い/美しく自由に生きる権利
2「怠ける権利」とは何か
「労働の権利」への反駁/過剰生産がもたらすもの/機械の奴隷に堕した人間/「怠ける権利」とは何か
3 働き過ぎだよ、日本人
「前工場法的労働実態」/勤勉さが招いた? 長期不況/供給は需要を生まない──竹中改革の愚/過剰生産を超えて/「爆買い」と貿易戦争──過剰生産のはけ口を求めて
第2章 わが孫たちの経済的可能性?
──ケインズの予言はなぜ外れたのか
1 バートランド・ラッセル『怠惰への讃歌』
奴隷の道徳としての労働の讃美/一日四時間の労働で足りる世界/労働と報酬の問題──ベーシックインカム論の源流
2 ジョン・メーナード・ケインズ「わが孫たちの経済的可能性」
ジョン・メーナード・ケインズ/「わが孫たちの経済的可能性」/「足るを知る」──ケインズとラッセルのイギリス/外れてしまった? ケインズの予言
3「相対的ニーズ」に支配される人間──ソースタイン・ヴェブレン
「アメリカン・ドリーム」の光と翳/「金ぴか時代」のアメリカ
4 世界のアメリカ化と「相対的ニーズ」の支配
「世界経済の黄金時代」と世界のアメリカ化/文化という「ソフトパワー」/上昇する「絶対的ニーズ」/人間の価値を図る尺度としての収入──イチローかく語りき
第3章 勤 勉──死に至る病
1 過労死大国ニッポン
Tさんの悲劇/はじまりは一九八〇年代?/過労に斃れる「企業戦士」
2 日本人は勤勉か?
国民性っていうな! /「日本人は勤勉ではない」/「勤勉のエートス」とその成功体験
3 過労死の悲劇はなぜ繰りかえされるのか
「自発的隷従」という病/「死に至る勤勉」のルーツを求めて/「自発的隷従」は「自発的」か?
第4章「奴隷の国家」がやってきた
1「奴隷の国家」とは何か
奴隷とは何か/資本主義の誕生/「奴隷の国家」の方へ/もう一つの古典的自由主義
2「愉快なニッポン」とその終焉──1960年に起こったこと
「昭和」への郷愁/「愉快なニッポン」──1950年代/「愉快なニッポン」の終焉──一九六〇年に起こったこと
3「奴隷の国家」がやってきた
保護された自営業者たち──「経済成長総力戦体制」の諸相1
「沈黙の春」の方へ──「経済総動員体制」の諸相2
制度化された階級闘争──経済総動員体制の諸相3
生と死の施設化──システムによる生活世界の植民地化1
企業社会のサブシステムとしての核家族──システムによる生活世界の植民地化2
ジャイアンの苛立ち──システムによる生活世界の植民地化3
4 サラリーマンは気楽な稼業だったのか?
サラリーマンという表象/ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用
会社に従属する個人
「経営家族主義」──あるいは「システムと生活世界の相互植民化」について
サラリーマンは気楽な稼業か?
第5章「社畜」の誕生──「包摂型社会」のゆらぎのなかで
1「右肩上がりの時代」の終わり──プラザ合意からバブル崩壊まで
プラザ合意と円高不況──日本とアメリカの「相互植民地化」
サッチャリズムとレーガノミクス──新自由主義の時代
国鉄民営化が意味するもの──中曽根康弘と「戦後政治の総決算」1
破棄された社会契約──戦後政治の総決算2
バブルとその崩壊
2「社畜」の誕生
「田中さんはラジオ体操をしなかった」
いじめの「発見」
「包摂型社会」の勤労者像としての「サラリーマン」
「排除型社会」の出現/「社畜」の誕生──「包摂型社会」のゆらぎのなかで個人は弱し、法人は強し
3 男と女と若者と──「社畜」の時代の文化革命
資本主義の文化的矛盾とアノミー
「ダメおやじ」──「社畜」の家庭内表象としての
「女の時代」の虚実
「社畜の国」が生んだオタク文化
第6章「棄民の国家」の方へ
──「失われた10年」に起こったこと
1「失われざる10年」の記憶
文化──「クールジャパン」の方へ
政治──五五年体制の崩壊と「市民」の台頭
2「棄民の国家」の方へ
「システム」の機能不全
「棄民の国家」の方へ
3 叩かれた「怠け者」
少年犯罪と「ユースフォビア」
叩かれた「怠け者」──「若者論の失われた10年」
統計の詐術と「世代の堕落史観」──若者への偏見を生み出したもの
第7章「純ちゃん」と「晋ちゃん」──「棄民の国家」の完成
1「自己責任! 」──小泉純一郎とその時代
「自民党をぶっ壊す」──ポピュリズム政治の幕開け
ナルシシズムが浸透した日本社会
エゴイスト角栄VSナルシスト純一郎
イラク人質事件と「自己責任論」
「公務員の身分を剥奪する! 」──郵政民営化選挙
2「生きさせろ! 」──「棄民」たちの逆襲
見出された貧困──「ワーキングプア・ターン」
声をあげ始めた若者たち
「丸山眞男をひっぱたきたい! 」──平成と昭和の世代間戦争
秋葉原の惨劇──「まなざしの不在の地獄」
働く人への同情/働かない人への偏見
3「棄民の国家」の完成
二度の政権交代──日本政治の漂流
「遊戯」・「饗応」・「称号」──「自発的隷従」を調達する安倍政権
ナルシシズムの二つの形──「純ちゃん」と「晋ちゃん」1
構造改革と「アベノミクス」──「純ちゃん」と「晋ちゃん」2
「棄民の国家」の完成
第8章 子どもと若者に「怠ける権利」を!
1「ゆとり教育」ってなんだ?──戦後教育を振り返る
「これだからゆとりは! 」──二〇一〇年代の若者たち
「系統主義」と「経験主義」──教育思想の二つの流れ
「詰め込み教育」の時代──高度経済成長期
「生きる力」と総合的学習の時間
「ゆとり教育」の退場
2「ゆとり」って言うな!
「PISAショック」の謎
ランキング至上主義──新自由主義社会の教育改革
「学力低下」は幻だった?
「ゆとり」を敵視する国
教師と子どもに「怠ける権利」を!
3 若者にも「怠ける権利」を! ──「自発的隷従」を超えて
天国か、地獄か──若者の人間関係
「空気を読むこと」=社会に出るための準備教育
ノーポピュラーカルチャー、ノーライフ
「私たちは埋没したい! 」──「コミュ力」という名の妖怪
若者にも「怠ける権利」を!
4 本当は恐ろしい能力主義
「スクールカースト」とは何か
「すること」から「であること」へ──「超近代」の逆説
「友だち地獄」と「スクールカースト」を超えて
本当は恐ろしい能力主義──相模原の事件を考える
「人は皆、精神病者であり、身体障碍者である」──能力主義と自己責任論を超えて
第9章 ベーシックインカムと「怠ける権利」
1 人工知能はベーシックインカムの夢をみるか
名人がコンピュータに負けたころに棋士たちの世界で起こったこと
「機械との競争」──労働市場からの退場を強いられる人々
「スーパー子ども」──人工知能時代の「期待される人間像」
なぜ技術の発展が災厄となるのか?
2 グローバリゼーション──「一%」と「九九%」
グローバリゼーションとは何か
「禍福は糾える縄の如し」──ソ連崩壊の教訓
拡大する格差/「一%」に抗う「九九%」──反グローバル運動
「エリートの反逆」への「大衆の反逆」──ポピュリズムを生み出したもの
地域通貨──庶民の「生きる力」
3 ベーシックインカム──「怠ける権利」をめぐる攻防
ベーシックインカムとは何か?
「怠ける権利」をめぐる攻防/本当は恐い福祉国家
「働かなくてもいいじゃない」──ホリエモン「参戦」のインパクト
「怠ける権利」より「働く権利」を! ──左派・リベラルの主張
4 ベーシックインカム導入で人々は働かなくなるか?
「フリーライダー」大歓迎! ──九割の労働が必要なくなる未来
ルトガー・ブレグマン『隷属なき道』
「負債としてのお金」──銀行支配が強いる経済成長
「お金は人権だ! 」
BIを可能にする国民的合意とは?
第10章「なまけ者になりなさい」
1 水木しげるの幸福論
水木しげるは「怠け者」か?
水木サンの幸福論
2 若者を過労死へと駆り立てるものは?
「学生消費者主義」──「上から目線」の若者たち
「わがままな消費者」と「忠実な労働者」──若者たちの二面性
「他人との比較」はやめられない
「好きの力」を信じた挙句に──「やりがい搾取」から過労死へ
3 坂道を下る──二一世紀的ライフスタイル
成長の時代の終わり──二〇三〇年の世界再訪
エネルギー革命の末路──福島第一原発事故
地方分権の方へ──坂道を下る1/自営業の復権──坂道を下る2
兼業社会の方へ──坂道を下る3
4「怠ける権利」を阻むものは?──長時間労働信仰とジェラシー
なお生き残る長時間労働信仰
練習をし過ぎると野球が下手になる──長時間労働神話に抗して
「働かざる者食うべからず」
ジェラシーが阻む「怠ける権利」
5 ゲゲゲのヴェブレン──「なまけ者になりなさい」
「親性傾向」と「製作者本能」──困難の中で培われた利他的な人間性
「怠惰な好奇心」とは何か
「プラグマティズム」──「怠惰な好奇心」の敵対者としての
「プラグマティズム」に支配された大学
宇沢弘文──水木とヴェブレンをつなぐもの1
前近代へのノスタルジア──水木とヴェブレンをつなぐもの2
「怠惰な好奇心」の赴くままに生きよ──ヴェブレンと水木しげるの教え
あとがき
ラファルグ、ラッセル、ケインズ、ヴェブレン、そして水木しげる。「怠ける権利」の思想史をひもときながら、過労死を生み出す「自発的隷従」を克服する“処方箋”を提示する!
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