「メンバーシップ型社会(雇用)」と「ジョブ型社会(雇用)」とのよく知られた対比から、日本社会の雇用の、前者から後者への移行の可能性を探る。
年功序列、終身雇用の「メンバーシップ型社会」は、社会環境の変化に脆弱だ。企業には、社員の生活を長期にわたって包摂する義務があり、1995年、日経連が、「新時代の『日本的経営』」で指針を示したとおり、正社員は、「長期蓄積能力活用型グループ」に限定され、それ以外は、非正規の雇用でまかなわれることになった。
それでも、とくに、サービス産業において、正社員は、過剰であり、ここから、「名ばかり正社員」、すなわち、著しく労働条件の悪い労働者が増加することになった。(ブラック企業の温床である。)
「正規のなかの正規」、「正規のなかの非正規(待遇)」、「非正規」、以上に労働市場は分断され、増加するワーキングプアが下層に滞留する。
筆者が評価する、有期契約雇用が5年超過で無期雇用に転換できるルールも、たとえば、図書館司書に代表されるように、生涯、定期昇給なし、ボーナスなしの、低賃金非正規労働者を増やすだけだ。
地域限定、職務限定の正社員も、それが、非正規と同様の低賃金処遇に捨ておかれたら、「正社員」である意味がない。
問われるべきは、企業への忠誠心を試すかのごとく、ひんぱんに転勤させ、職務間を異動させ、また繁忙期にはきわめて長時間の残業を強いてきた、「日本型経営」における正社員の処遇であり、この正社員を、ディーセントなものに転換していくことが必要だ。2人の正社員に8人の非正規ではなく、10人の地域限定もしくは職務限定の正社員雇用をめざしていくべきである。そのなかの1人か2人かの者が、成果、業績で評価され、役職者としてのキャリアのトラックに登用されれば組織はまわっていく。
大学教育と職業とのつながりについては、学問横断的に、語学、プログラミング、サービス接遇、経理等のプロフェッショナルを養成していけば良いわけで、大学が職業人養成のみを目的とした機関に変容する必要はない。そもそも、リベラルアーツを欠いたプロフェッションは、高度化するジョブに適応することはできないだろう。
目次
序章 若者雇用問題がなかった日本
第1章 「就職」型社会と「入社」型社会
第2章 「社員」の仕組み
第3章 「入社」のための教育システム
第4章 「入社」システムの縮小と排除された若者
第5章 若者雇用問題の「政策」化
第6章 正社員は幸せか?
第7章 若者雇用問題への「処方箋」
ブラック企業、限定正社員、非正規雇用…様々な議論の中で、もみくちゃにされる若者の労働問題。日本型雇用システムの特殊性とは?現在発生している軋みの根本原因は?労働政策に造詣の深い論客が雇用の「入口」に焦点を当てた決定版。感情論を捨て、ここから議論を始めよう。
最新の画像もっと見る
最近の「本」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事