酒井あゆみ,2001,眠らない女―─昼はふつうの社会人、夜になると風俗嬢,幻冬舎.(3.28.24)
ふーん、たいした発見はなかったな。
つか、昼職がつまんなくて安月給であれば、夜、性風俗のバイトするのって、そんなにおかしいことだと思わないけどね。
だから、多くの人は、少しでも、自分の資質、能力を生かせ、いくばくかの社会貢献ができて、労働条件の良い昼職に就こうとするんじゃないかな。
だけど、虐待、性暴力、いじめ、不登校、ドロップアウト、ブラックな職場等で、まともな昼職に就けなくなった人たちもたくさんいる。
わたしは、若いとき、高偏差値大学に籍を置いていたので、そこの女子学生の容貌、知性両面でのレベルの高さはじゅうぶんにわかっている。
付き合う男、結婚相手も、そうとう、容貌、知性両面でのレベルが高く、そうやって、親から子へと、恵まれた遺伝子が継承されていく。
そこには、残酷で絶対的な不平等がある。
もちろん、彼女たちが、その後、幸せな人生をおくったとはかぎらない。
相手の男がとんでもないモラハラ男だったとか、男が大病院の院長の息子で、なかなか(お世継ぎの)子どもができずに辛い思いをしたとか。
それでも、そんな彼女たちのように、経済資本、文化資本、社会関係資本に恵まれず、絶望的な昼職にしか就けなかった女が、そこから這い上がるためには、夜職、とくに性風俗しかなかった、という身も蓋もない事実がある。
だけど、唯一共通してると感じたのは、彼女たちが昼間「やるせなさ」と衝突したときの接し方だった。自分の周りには、どうにもならないやるせないことがいっぱいで、そのせいで自分自身の輪郭さえもうまくつかめず、だんだんとボヤケてしまいそうだと感じる。でも彼女たちは、その状態を嘆くのではなく、やるせなさの中からもう一度自分をとり戻すことが大切なのだということを、直感で知り、自分で行動をおこすのだ。だからこそ、彼女たちの言葉は心に深く鋭く突き刺さる。
取材を終えて私は思う。東電OL殺人事件の被害者渡辺康子さんも彼女たちと同じだったと。やるせなさに押し潰されて消えてしまいそうな気持ちのなかで、どのように生きればいいかと真剣に悩み、苦しみ、たどり着いたのが夜の世界だったのだ。
渋谷の円山町にあったホテトル事務所で、私にやさしく声をかけてくれた康子さんの顔が思い出されてくる。あの顔が、昔よりずっとたくましいと感じてしまうのは、私の気のせいなのだろうか。
最後に、取材に応じてくれた十五人の女性たち、取材中にお世話になった方々に心からお礼を申し上げます。
そして、この本を渡辺康子さんに捧げさせてください。
(酒井あゆみ、pp.252-253.)
なんで、男って、こう、稚拙なロマンティシズムに自己陶酔するんだろうね。
バカじゃねーの?
渡辺泰子さんが、立ちんぼしてたのは、昼職が、人生がむなしかった、ただ、それだけだろうに。
あと、愛着資本の欠落、承認の不足の問題ね。
それに、こういう風俗関係の仕事は、やっただけの評価はあるじゃないですか。昼間の会社って、働いたぶんだけの評価って全然ないから。こっちの仕事はちゃんとやれば「指名」って形になって返ってきたりする。そうですね。「必要とされてる感じ」っていうのかな。
(瀬戸渚、p.257.)
性虐待等の深刻なトラウマがあって、自分がずっと汚らわしい存在でしかないと自己嫌悪していたり、とことん悲惨な人生をおくってきて、風俗嬢や飲み屋の酌婦になり、クズ男でも贔屓にしてくれるのがたくさんできたら、承認欲求が充足されるわけね。
寄ってくる男とセックスしまくるのも、マンション与えたり、月極でお手当くれる妻子持ちの男としか付き合えないのも、それと一緒。
独身の男と向き合う自信がないわけね。
そういう子が救われるとすれば、これまでの人生をリセットして、自らの情操、知性のレベルを上げていって、「誇れる自己」をつくりあげていくしかないだろうね。
それから、夜職に就きながら、昼職も辞めずに続けていくというのは、とてもクレバーな選択だと思うな。
ソープではたらくお母さん。
これには、笑った。
ああ、でもあのときは参ったなあ。子供が小学校一年生のときの作文で「お母さんは、お風呂がいっぱいある所で働いています」って書いてしまって、学校に呼び出し食らった。子供は「お母さんの仕事は何?」って聞かれると、「高級サウナって所で働いてるの」って言ってしまうの。もう参ったわ。でも子供も、こういう所で働いてる女の人たちは、みんな苦労して訳ありで働いてるってこと理解してくれた。私がそういうふうに教育したんやけどな。だからグレもしなかったし、全部一人でできるようになって、何も言わなくっても勉強していい大学に入った。
(pp.230-231.)
良かったら、こちらもご覧ください。
朝ふつうに出勤しても、夕方になると風俗嬢に変わる女性たちがいる。税理士をしながらSM嬢、高校教師でありながらホテトル嬢、会社を経営しながらソープランド嬢など。15人の風俗嬢には、どうして“ふたつの顔”が必要なのか。その本心に鋭く迫る。元風俗嬢の著者のひたむきな情熱で完成させた力作。都会の謎に迫る異色ノンフィクション。
目次
私って口の中にアレ出されるよりも、オシッコ飲んじゃうほうがいいの
お父さんはもう夜中に来なくなったの。あの呻くような声が聞けなくて、寂しかった
私、二回目のセックスで、もうイクことを覚えちゃったんです
悔しいのは、客とやってて、いっちゃうこと。体が反応しちゃうんだ
一日のノルマは三本。それが限界
初めて男の勃起したモノを見たときは、声を張り上げそうなくらい感動しちゃった
夜の仕事はしばらく続けていくつもり。でもね、『一体どこで狂ってしまったんだろう』とたまに考えるよ
後悔してないんだけど、お客に体を触られる度に母親の声が聞きたくなるの
AVの仕事をして変わったのは、プライベートのエッチで『電気消して』って言わなくなったところかな
風俗に来る男の人をみても、ただ出しに来るんじゃないって分かった。みんな誰かと話をしたいんだよほか