宿なしの東京放浪生活、し尿汲み取り業の滑稽に描かれた悲哀、色恋を前提としない結婚への執着、貧乏だけど愉快な借金生活、配偶者と娘、亡くなった息子へのやさしいまなざし、反核、反戦思想、故郷、沖縄への想い等々が、異常なほどの執着心をもって推敲された詩文をとおして、読む者に伝わってくる。
おかねに執着せず、他者、自然、そして地球に包摂された者にしかあじわえない悠久の時間とともに、山之口貘の詩作があるように思った。
本書は、山之口貘の作品の収集、編纂にあたってこられた、勤務先大学の文学部日本語・日本文学科、松下先生からご恵贈いただきました。ありがとうございました。
山之口貘(1903‐1963)。近代・現代を代表する沖縄生まれの詩人。貧乏のどん底で詩を書き続け、40年余りの詩人人生で198篇の作品しか残さなかった。貘の詩は、ほとんどが自身の生活をうたったものであり、それらは、住所不定の放浪生活を送っていた独身時代の前期と、妻子を背負っての新たな貧乏物語をうたった後期の作品とに大きく分けることができる。本書はこの点に着目して、198篇から135篇を選び、「住所不定」「結婚と暮らし」「故郷沖縄」「戦争風刺」「歌になった詩」の5章からなるアンソロジーとした。「住所不定」は前期の、「結婚と暮らし」は後期の作品で、本書の骨格をなすもの。続く「故郷沖縄」は、戦後の故郷の痛みに思いを馳せた作品であり、「戦争風刺」は、風刺詩人とも言われた貘の“それとは分からない”戦争への痛烈な批評を集めたもの、「歌になった詩」は、フォークシンガー・高田渡が中心となり、1988年にトリビュート・アルバムとして出したCD「詩人・山之口貘を歌う」に収録された作品である。既存の貘のアンソロジーと比べて詩の収録数が多いことに加え、一篇一篇の詩を丁寧に扱った美しいレイアウトも特長。詩論「詩とはなにか」、代表作である「鼻のある結論」「畳」などの詩が生まれた背景が描かれた自伝的小説3篇が収録されているのも、本書ならではの特典。
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