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本と音楽とねこと

地域再生の社会学

三浦典子・横田尚俊・速水聖子編著,2017,『地域再生の社会学』学文社('17.3.23)

 本書は、三浦典子氏の定年退官を記念し編まれた論文集である。
 宇部興産(1章)、ブリヂストン(2章)の地域社会貢献事業、山口市一の坂川の環境保全運動(5章)、宮崎県五ヶ瀬町の「自然活動」事業(14章)等、特定の事例に的を絞った論考は、なかなか読み応えがあった。これらの事例研究は、「地域再生」のモデル事業を記録し広く知らしめる意味でも、たいへん貴重な成果といえる。
 それに対し、「理屈」で「地域再生」を論じたものは、総じて退屈で、とくに、官僚が好みそうな、自己本位の稚拙なコミュニティ理想像を住民に押しつけ、参加者40名前後のくだらないワークショップをして「協働のまちづくり」の一環として位置づけるなど笑止千万である。(7章)まちがって愚論を展開する失敗は誰にもあるが、自らの地位を悪用し、社会学のアクションリサーチを辱める、そして有害無益でしかない地域住民への官僚的な指導など行うべきではない。社会学の論考を読んでアタマにきたのは久しぶりだ。
 「地域再生」は、企業、住民有志、ボランタリーアソシエーション等が担ってきた。ファミリーサポートセンターとふれあいいきいきサロンの事業、本書では取り上げられていないが小規模多機能共生ホームの活動、認知症高齢者の見守りネットワークの構築等、地域住民の高齢化にともなう生活ニーズの充足をはかるべく、「福祉コミュニティ」としての「地域」の「再生」を実践してきた事例は豊富にある。
 「社交」、「経済」、「文化」、「防災・減災」、「福祉」、以上が活性化もしくは機能向上を図るべき地域コミュニティの課題である。本書の多くの論考には、その課題解決をはかるための有益な知見が提示されている。

目次
はじめに:社会学からみた地域再生
第1部 企業家と産業都市の地域再生
1章 企業の社会貢献と地域再生――アートがつなぐ官民の力――
2章 企業における家族経営と地域
3章 過疎地のアートプロジェクトと地域活性化
第2部 地域再生の理論と自治体政策
4章 地域社会における信頼形成の社会理論
5章 地域再生と「場所」の可能性
6章 市民参画と市民活動の時代における地域再生への展望
7章 「協働のまちづくり」の課題と展望
8章 災害復興と地域再生
第3部 まちづくりの実践と地域再生
9章 山村集落の地域再生とむらづくりのための基本認識―山村高齢者の生きがい調査から限界集落論を検討する
10章 類縁関係に基づく移住者のコミュニティ形成
11章 地域福祉活動と地域圏域
12章 生活困窮者への伴走型支援とコミュニティ形成―生活構造論からの整理
13章 子育て支援と地域ボランティア
14章 農山村地域における育児の社会化の可能性―宮崎県五ヶ瀬町の事例から
第4部 中国都市の現在
15章 中国大都市における転居後の高齢者の生活状況―上海市の高齢者調査をてがかりに
16章 中国の都市住民における主観的幸福感

 本書は、三浦先生よりご恵投いただきました。ありがとうございました。

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