ブランド信仰に根差した消費社会、軍産複合体、1%の富裕層とグローバル企業のための政治、とめどなき資源収奪と環境汚染、気候変動、ミソジニー(女性嫌悪)、人種差別、反移民主義等々、アメリカ文明の負の遺産がトランプ政権となって結実した。そのとおりだろう。
バーニー・サンダース支持を公言するクラインは、いきづまった代議制民主主義の枠を超え、カナダ先住民、社会運動家、労働組合等と対話を重ね、多くの人々が'Yes'と言える社会経済のプラットフォームを提言する。再生可能エネルギーへの全面転換、高等教育無償化、すべての人々がアクセスできる医療、介護、福祉制度、そのための富裕層とグローバル企業の税負担の強化、炭素税の導入、軍事費の削減等々、バラク・オバマも達成できず、大統領選でヒラリー・クリントンが敗退する原因となった問題解決の方途を提示する。
「価値中立」を重視する人からは、あまりにイデオロギーに汚染されているとか、あるいは露骨な左派ポピュリズムでしかないんじゃないか、という疑問が付せられるかもしれない。しかし、クラインは、おそらく、イデオロギーに汚染されていない思想などありえない、そうだ、わたしは、左派ポピュリストだ、そのどこが悪い?というかもしれない。ジャレド・ダイアモンドは、1973年に起こった、チリの軍事クーデターについて、アメリカ政府が関与した証拠が山ほどあるにもかかわらず、それについてはまったく触れず、たんにアジェンデ社会主義政権の経済政策の失敗に帰した。さて、クラインとダイアモンド、どちらがイデオロギーに汚染されているのだろう?わたしは、答えは明白であると思う。少なくとも、クラインは、自らのポリティカルな主張の一つ一つにていねいな根拠を示している。'Black Lives Matter'についての回答も、本書で明示されている。
目次
第1部 なぜこうなったのか―スーパーブランドの台頭
なぜトランプは究極のブランドになることで勝利したのか
ファースト・ブランドファミリー ほか
第2部 今どうなっているのか―不平等と気候変動
気候時計は真夜中を打つ
グラバー・イン・チーフ ほか
第3部 これから何が起きる恐れがあるか―ショックがやってくるとき惨事の親玉たち―民主主義をすりぬける抜け道
危険な政策リスト―危機に備えて予期しておくべきこと
第4部 今より良くなる可能性を探る
ショック・ドクトリンが逆襲されるとき
「ノー」では十分でなかったとき ほか
「アメリカ社会がもちうる最悪な要素すべてを象徴する男」「アメリカ始まって以来の“核武装したリアリティ番組大統領”」の登場。大統領執務室と「マール・ア・ラーゴ」、そしてツイッターから矢継早にくり出される政策―規制国家の解体、福祉国家と社会福祉事業に対する徹底的な攻撃、移民と「イスラム過激派によるテロ」に対する文明的な戦い…。それらは、すでに最も弱い立場にある人々への明白な脅威であることに加えて、次から次へと危機の波を生じさせるトランプ版「ショック・ドクトリン」である。この脅威に対して「NO」と言うだけでは足りない!際限のない収奪と蕩尽に基づく社会から、思いやりと再生に基づく社会へ。みなが望み必要とするビジョンをつくり、実現するために、私たちはたゆまぬ努力をつづけなければならない。トランプへの怒りをもとに、切るような迫力の筆致で書き上げられた、人類と地球の未来のための警世と行動の書。
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