わたしたちに深い自己覚知を促してくれる、学説史をふまえた好著。
たまたま見つけたスーザン・バック=モースの『ヘーゲルとハイチ』を読んだことが、本書が執筆されたきっかけとなった。ヘーゲルとハイチ?18世紀終わりから19世紀初頭にかけて、かの地において起こったアフリカ人奴隷の反乱と、フランス植民地からの独立。フランス革命同様、一時、恐怖政治を生みながらも、画期的な奴隷蜂起と奴隷制廃止の一大事となった。この歴史的な出来事に刺激されたヘーゲルは、確信をもって、「奴隷が自らを解放する絶対的な権利」を擁護する。
ジョン・ロック、モンテスキュー、ジャン=ジャック・ルソー、ヴォルテール、アダム・スミス、ヘーゲル、カール・マルクスらが紡いだ思想史をたどったうえで、筆者は、ネオ・リベラリズムが席巻する現代における、マルクスのいう「隠された奴隷制」の実像に迫る。ここいらへんの思索には、推理小説と共通するおもしろさがある。
自己責任、自己啓発、「強制された自発性」などの観念にみられるとおり、わたしたちが、自由どころか、いまだ奴隷状態にあることを、本書は教えてくれる。そして、奴隷からこれ以上富を収奪できなくなった資本主義は終末を迎えることになる。
ポスト資本主義社会は教条主義的社会主義のそれではない。筆者が、マルクスの協同組合論に注目するとおり、それは、奴隷状態からの解放、すなわち自由と、「負債を生まない贈与」、すなわちクロポトキンのいう「相互扶助」により成り立つ社会にいきつくことになるだろう。
目次
はじめに 「奴隷制」と資本主義
第1章 奴隷制と自由―啓蒙思想
第2章 奴隷労働の経済学―アダム・スミス
第3章 奴隷制と正義―ヘーゲル
第4章 隠された奴隷制―マルクス
第5章 新しいヴェール―新自由主義
第6章 奴隷制から逃れるために
終章 私たちには自らを解放する絶対的な権利がある
マルクスの『資本論』には「隠された奴隷制」というキーワードが登場する。一般に奴隷制と言えば、新大陸発見後にアフリカから連れて来られた黒人奴隷が想起され、すでに制度としては消滅している。しかし著者によれば、「自由」に契約を交わす、現代の私たち労働者も同じく「奴隷」であるという。その奴隷制はいかに「隠された」のか。格差社会はじめ諸矛盾が解決されることなく続く資本主義にオルタナティブはあるのか。マルクス研究の大家である著者がロックから現在に至る「奴隷の思想史」三五〇年間を辿り、資本主義の正体を明らかにする。
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