訓覇法子,1991,スウェーデン人はいま幸せか,日本放送出版協会.(11.8.24)
本書が出版されて33年が経過しているが、スウェーデンは、いまもなお、「胎児から墓場まで」の高福祉高負担社会を維持し続けている。
それは、偶然でも、不自然なことでもない。
スウェーデンが、デンマークと並んで、世界一の高福祉社会を実現し、維持し続けてきたのには、それなりの理由がある。
思いつくままに、列挙してみよう。
◯伝統的、基層的な家族が、エマニュエル・トッドの類型でいう「絶対核家族」 (la famille nucléaire absolue)であり、家族、親族間、とくに子どもが親を扶養する慣習が希薄であったこと。
◯カトリシズムの浸透を排し、ルーテル教会(福音ルター派のプロテスタンティズム)を中心に置く教区が形成され、相互扶助、連帯のエートスが育まれて、また、さほど女性の権利を抑圧する家父長制が定着しなかったこと。
◯相互扶助なしでは生き延びるのが難しい、過酷な気候条件(日照時間が短く低温)があったこと。
◯労働運動、女権拡張運動の先進地であり、労働組合を母体とした政治参加、女性の権利の拡張が進んでいったこと。
◯政治家、官僚が、有権者により統制され、特権階級化していないこと(エリートへの接近可能性が高く、エリートによる操縦可能性が低い)。
◯計算可能性、目的合理性を重んじる国民性から、生活上のリスクに、個人的に対処するのではなく、手厚い社会保障により対処する合理的な社会システムを構築してきたこと。
スウェーデンの高福祉は不思議でもなんでもない。
本書を読んで、社会福祉の基層にある文化の違いにあらためて思い至らざるをえない。