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セックス依存症

斉藤章佳,2020,セックス依存症,幻冬舎(Kindle版).(10.6.24)

社会的、経済的な損失を何度も被りながら、強迫的な性行動を繰り返してしまうセックス依存症。「セックス中毒」などと偏見を持たれがちだが、実は性欲だけの問題ではない。脳の報酬系に機能不全が生じて「やめたくても、やめられない」状態に陥ることに加え、支配欲や承認欲求、過去の性被害や刷り込まれた性的嫌悪、「経験人数が多いほうが偉い」といった“男らしさの呪い”などが深く関わっているのだ。2000人以上の性依存症者と向き合ってきた専門家が、実例をもとにセックス依存症の実態に迫るとともに、その背景にある社会問題を解き明かす。

 自己も他者も不幸にし、人生を狂わせかねないセックス依存症。

 斉藤さんは、ソーシャルワーカーとして関わった数多くの依存症当事者の事例から、依存のメカニズムと、依存からの脱出の方法について考察する。

 男性の依存症者には、女性との性行為を、ホモソーシャルな同性集団内での競争の手段として用い、それにより承認欲求を充たそうとする者がいる。

 現在の日本において、男性に対してはいまだに「たくさんの女性と肉体関係を持っているほうが男らしい」という社会的バイアスが存在します。とくに男同士の絆や結びつきを重視するホモソーシャルな世界では、女性蔑視(ミソジニー)を介して絆を深めることが起こりやすいため、女性をモノとして扱い、ナンパした数や経験人数の多さを競うことで同性の仲間から認めてもらうという風潮もあります。つまり、自身の歪んだ承認欲求を満たすための道具として女性を使っているのです。

 カネと権力をめぐる競争も有害で虚しいものであるが、「関係した女の数」を競うのも、それと同様に愚かしい。

 「モテ自慢」をする者は、それ以外に自らの存在証明の手段をもたない、中身空っぽの存在なのだろう。

 性虐待、性暴力の被害経験をもつ女性が、セックス依存に陥りがちであることは、いまや広く知られている。

 逆に女性のセックス依存症は、臨床の場ではよく見られます。とくに多いのは、性被害に遭った女性が「自分には価値がない」「こんな私は汚らしい」と自暴自棄になり、自傷行為的に不特定多数と性関係を持ってしまうパターンです。
 性関係を持つとき、最初は相手からチヤホヤされたり、甘い言葉をかけられたりして大切にされているように感じますが、関係を繰り返しているうちに相手も慣れてきて、出会ったころのようにはいかなくなります。なかには相手が暴力的になり、再び性被害を受けることもあります。やがて「この人も私のことを見捨てるのではないか」と不安に陥り、さらに不特定多数の相手とその場限りの性関係を持って、深く傷ついていきます。

 ちなみに、人がその物質や行為から得られる高揚感や快楽にハマることを「正の強化」といいます。これまで依存症は、脳の報酬系に作用する「正の強化」が主な原因とされていました。それに対して、心理的な苦痛や不安を一時的に緩和してくれることを「負の強化」といいます。実は、人間は「正の強化」よりも「負の強化」のほうがハマりやすいのです。
 覚醒剤やアルコールは、それがどんなに気持ちよくても回数や量に限界があります。快楽を追い求める正の強化に限界がある一方で、負の強化にはそれがありません。つらかった記憶や心理的苦痛が、すべてなくなることはないからです。負の強化こそ、依存症の本質といってもよいでしょう。

 トラウマ由来の依存症に苦しむ当事者は、実績と信用のある精神科クリニックで、認知行動療法(持続エクスポージャー法)、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)、SSRI(薬物療法)等を受けて、自身の心的外傷記憶と向き合う以外、「負の強化」という地獄から抜け出す方途はあるまい。

 子どもが両親の性行為を目撃してしまうことは、珍しいことではない。

 それが、強迫神経症的なセックス依存症につながることもある。

 親の悪意のない行動が、結果として見えない虐待となるケースがあります。「プライマリーシーンの目撃」です。これは子どもが親の性行為を目撃して外傷体験になってしまうというもので、臨床現場ではしばしば当事者から告白されます。
 たとえ両親が仲良くセックスをしていたとしても、正確な知識や経験のない子どもはその情報を適切に処理できません。母親が父親と身体を重ねる姿は、子どもが見れば「お母さんはお父さんに虐げられているのではないか」「見てはいけないものを見てしまった」とすら思ってしまいます。そしてその強烈な記憶がトラウマとして、記憶に植えつけられていきます。
 やがて大人になると、そのトラウマを癒やすために盗撮行為やのぞき行為がやめられなくなったり、強迫的な性行動に耽溺したりするケースがしばしば見られます。性依存症者のなかには、子どものころに両親のセックスを見てしまったことがある人も少なくありません。精神分析学者のフロイトは、このような過去の外傷体験の影響で何度も強迫的にその行動を繰り返すことを「反復強迫」という形で説明しています。
 人間は、五感から得た情報を脳内の海馬で記憶として処理し、データベース化します。しかし戦争や災害、交通事故の目撃など、日常ではまず体験しない衝撃的な光景を目にしたとき、その情報が適切に処理されずに、脳内でいわゆるバグが生じてしまいます。それがトラウマ体験の後遺症としてさまざまな問題行動を引き起こす要因になると考えられています。
 親のセックスを見た子どもがその情報を適切に記憶のなかで処理できず、反復強迫として、その外傷体験を癒やすために不特定多数の相手とセックスを繰り返してしまうというのも、ひとつのパターンです。

 あらためて、自己の心的外傷記憶と向き合い、不幸な記憶を、幸福な記憶ともども統合することの重要性を再認識した。

目次
第1章 誤解だらけのセックス依存症―彼らは「性欲モンスター」ではない
第2章 危険なセックスをやめられない人たち―実例から背景を読み解く
第3章 「性的しらふ」を求めて―セックス依存症の治療:医療機関と自助グループ
第4章 依存症当事者に聞く自助グループの内側―「底つき」から回復への道筋:ミラクルさん(仮名)の場合
第5章 性依存症の背景にある社会問題―性欲原因論、男尊女卑、性教育とアダルトコンテンツ
第6章 AV男優・森林原人と語るそもそも「性欲」とはなにか?―幸せなセックス、依存症のセックス


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