読んでみてなにか新しい知見なり分析視角なりが学べる作品ではなかったが、イギリスとアメリカ合衆国を中心にした、福祉国家の歴史と現状についての入門書としては、要点をおさえながらよくまとまった書物ではないだろうか。
ガーランドが指摘するとおり、いかに新自由主義の思想が社会権の後退をもたらしたとしても、福祉国家の屋台骨は揺るがない。
なぜなら、社会保険の制度が、個人が直面する(可能性のある)リスクを社会的に軽減する、普遍的で代替不可能な優れたものであるからであり、また、いかに個人主義化が進行しようとも、わたしたちが、仲間がじゅうぶんなケアがなされずに死んでしまったり、窮乏、排除、搾取、虐待、暴力等による苦痛にさいなまれている現実が耐えられないからである。
こうした、リスクの分散と不幸の軽減をはかる枠組みとしては、いまのところ、「想像の共同体」としての、また独自の通貨管理の権限を有する「国家」しかありえない。
本書に、福祉国家の公共哲学としての、コミュニタリアニズムの普遍性が言及されていれば、福祉国家論としての完成度はより高かったことだろう。
工業化された世界で、公的支出のかなりの部分を吸収する高度な福祉国家装置を持ち合わせていない国家は存在しない。
他方、福祉国家は多様な形態を取り、給付の手広さや手厚さには幅がある。
それゆえ、福祉国家の存在はあらゆる先進社会の特徴であるにもかかわらず、その全容は判然としない。
これに加えて、財源や税金をめぐり常に政治的に争点化されているため、左右両極でその像が大きく引き裂かれている。
本書は、救貧法の時代からポスト工業社会までの歴史を辿り、その多様な形態(社会民主主義的レジーム・保守主義的レジーム・自由主義的レジーム)をまず確認する。その上で給付のあり方(社会保険・社会扶助・ソーシャルワークなど)をおさえるのが特長だ。
そこで浮かび上がるのは、福祉国家が貧困層より中間層を優遇するシステムであるということである。
この点は、福祉国家が猛攻撃を受けたサッチャーとレーガンの「ニューライトの時代」も変わらなかったという。「ウェルフェア」から「ワークフェア」へ、福祉国家はいかに変容するのか? 入門書の決定版!
目次
第1章 福祉国家とは何か
第2章 福祉国家以前
第3章 福祉国家の誕生
第4章 福祉国家1.0
第5章 多様性
第6章 問題点
第7章 新自由主義と福祉国家2.0
第8章 ポスト工業社会への移行―福祉国家3.0へ
第9章 なくてはならない福祉国家
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