消費増税による社会保障強化は虚構であること、相続税率を強化すべきであることなど、同感できる部分もあるが、それ以上に強烈な違和感をもつところが大きい。
「偽弱者」も含めて社会保障の大判振る舞いを続けると、国と自治体の財政破綻は不可避なので、稼働不能な者のみに選別的な現物給付を行うべきだ。これが、鈴木氏がもっとも言いたいことなのだろう。
鈴木氏は、自ら本書で引用している、ミルトン・フリードマンのネオリベラリズム思想の枠内からしか問題解決の方途を示さない。「最低賃金の大幅引き上げは、ワーキングプアを失業者にし、就業困難層をさらに就業不能にする」(p.252)とか、稼働能力がある生活保護受給者は「貧困の罠」に陥るから生活保護制度の枠外で就労を条件とした生活支援をすべきとか、国の財政シミュレーションには周到なデータによる裏付けを行っておきながら、あまりに根拠なき暴論を展開するのは、鈴木氏の知的良心の欠如に由来すると言わざるをえない。
「国土強靱化」を旗印にした公共事業の展開、国家の安全保障に必要なレベルを遙かに超えた防衛費予算、ゼネコンへのキックバックを前提としたODAや円借款、法人税減税と過剰な控除優遇、どんぶり勘定の特別会計制度等々を見直せば、社会保障水準を引き揚げつつ国と自治体の財政健全化をはかることはじゅうぶんに可能である。
昨日発表された米国雇用統計では、勤労者の賃金上昇が好感された。財政学者であれば、アベ流のデマゴーグを吐くことをやめ、内需依存度が高い成熟社会で社会保障財源を確保し財政悪化を防ぐ方途を誠実に熟考すべきだ。
目次
第一章 財政から語る社会保障
第二章 社会保障の暗黙の債務は一五〇〇兆円
第三章 社会保障と税の一体改革、社会保障制度改革国民会議
第四章 年金支給開始年齢は七〇歳以上に
第五章 高齢化社会の安定財源は消費税ではなく相続税
第六章 公費投入縮減から進める給付効率化
第七章 消費増税不要の待機児童対策
第八章 「貧困の罠」を防ぐ生活保護改革
第九章 改革のインフラ整備と仕組み作り
消費税が増税されると本当に社会保障は充実するのか。
現在わが国の社会保障給付費は、GDPの約4分の1にあたる110兆円を超える規模に達しており、年間3~4兆円というペースで急増している。消費税率の引き上げの効果は3~4年で消失する計算となる。
年金・医療・介護・子育て支援など、「少子高齢化」日本に暮らす人々の不安は拡がる一方だ。社会保障財源の現状を具体的に改善する議論と給付の抑制・効率化策も提言する。
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