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本と音楽とねこと

地域学をはじめよう

山下祐介,2020,地域学をはじめよう,岩波書店.(7.15.24)

「自分の育った地域なんてたいしたことない」。そう思っている若者は多い。本当にそうなのだろうか?どの地域にも固有の歴史や文化があり、人々の営みがある。それらを知っていくことで、地域の豊かさ、そして自分や自分が生きる社会、そして未来が見えてくる。調査実習の手法や体験も織り込みつつ、時間と空間を往来しながら、地域学の魅力を伝える。

 地域が見えにくくなって久しい。

 被雇用者化と職住分離により、日中は、就学前の子ども、専業主婦、高齢者しか地域にはいない。
 家は寝に帰るだけ、という人も少なくない。

 モータリゼーションの影響も大きい。
 出発地(自宅)と目的地(職場、学校、商業施設等)とが点と点とで結ばれ、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)に発展するような人びとの出会いとコミュニケーションが成立せず、面的な人間関係も広がりにくい。

 そして、プライヴァタイゼーション、生活の私化、個人化が進行することにより、「隣人喪失」という地域の空洞化がとめどなく進行する。

 しかし、地域レベルでの高齢化が進行していく中で、とくに都市郊外地域の「昼間人口」が増加している。
 高齢者人口が増加していく中、従来のクルマ優先の道路行政も見直さざるを得ず、「近隣住区」を単位とした、歩行者優先の移動ルートの整備が必要とされている。
 コミュニティカフェ等、高齢者が日中集える場の整備も必要であり、ハード、ソフト両面での「高齢者が住みやすい地域」の実現は、子ども、障がい者にとっても「住みやすい地域」の実現につながる。(コミュニティカフェは「子ども食堂」や「富山型共生ホーム」のブランチとして展開していくこともできる。)

 本書は、徒歩か自転車で移動し、「虫の目」で地域を経験してきた中高生向きに書かれたもので、生活が「脱地域化」する前にこのような地域に興味を深めてもらうための試みはたしかに有効なのだろう。

 ちなみに、著者の山下くんは、わたしがK大助手をしていたときに、学部の社会学専攻(地域福祉社会学専攻だったかもしれない)に進学してきた。
 その後、K大院、同助手を経て、弘前大学、東京都立大学に勤め、膨大な地域社会学の研究実績を積んできた人だ。

目次
1 地域を見出そう―国とのつながり
大都市郊外に息づく地域
地域はあまねく存在する
地域とは何だろうか―1分割して統治する
地域とは何だろうか―2自治の単位、生命の単位
都市について
2 水を見よう、道をたどろう―空間のつながり
弥生水田から田舎館城、そして田んぼアートまで―田舎館村の地域学
水の流れに沿って―岩木川がつなぐ山村と都市
道がつなぐ村、町、都市、国
生きている地域とその変化
3 家、村、町、都市―時間のつながり
限界集落が生き残っているわけ
地域の構成単位は家である
都市も家でできている
家・村・町・都市の脈動とそのゆくえ
地域に探る歴史の年輪
近代化の中の地域学
4 地域学をはじめよう
地域学をはじめる前に
対象とする地域を見出す―(1)地図を使って地域空間を理解する
対象とする地域を見出す―(2)機関・施設・歴史情報を把握する
対象とする地域を見出す―(3)市町村を取り上げてさらに調べる
資料にあたり、テーマを探る
年表をつくり、時間を把握する
歩く、見る、聞く、そしてまとめる


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